【討論】「撮りたかったシーンはすべて禁止された」 映画『太陽の下で-真実の北朝鮮-』トークイベント

北朝鮮政府が演出した“庶民の日常生活”。その裏側をロシアの撮影スタッフが危険を冒して暴き、政府の強力な圧力と非難を押しのけ世界各国で高く評価された話題作『太陽の下で-真実の北朝鮮-』が2017年1月21日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次公開となる。

日本公開に先駆け、本作のメガホンを取ったヴィタリー・マンスキー監督と映画『かぞくのくに』のヤン・ヨンヒ監督を迎えて、“真実の北朝鮮”を知る異国の映画監督によるトークイベントが実施された。

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個人の自由が認められない北朝鮮において、“庶民の日常生活”とは一体どのようなものなのだろうか?

モスクワ・ドキュメンタリー映画祭の会長も務めるヴィタリー・マンスキー監督は、誰もが知りたい疑問を、誰もが見えるかたちで描きたいと考えていた。北朝鮮政府から撮影許可を得るまで二年間、平壌の一般家庭の密着撮影に一年間。その間、台本は当局によって逐一修正され、撮影したフィルムはすぐさま検閲を受けることを強いられたが、検閲を受ける前にフィルムを外部に持ち出すという危険を冒して本作を完成させた。

ヤン・ヨンヒ監督は「山形国際ドキュメンタリー映画祭などで監督の名前は存じ上げていました。こういう作品を出す監督がついに出たか、やっとか!という思いですね」と本作のような作品を待ち望んでいたそうで、「北朝鮮がこういう状況にあるというのは、大なり小なりみんな知っているわけで北朝鮮に取材に行ったことがあるいろんなメディア媒体の記者たちはそういう場面を目撃してきていると思います。ですから極端にいうと、撮ろうと思えば撮れたかもしれないけれど、みなさん次(北朝鮮に)入れなくなる。北朝鮮取材というのはお上にお伺いを立てるというのが付きまとうので、テープチェックだとかその後の取材が出来なくなる新聞社や放送局との関係が良くなくなる、入国の許可が下りなくなるなど、いろんなことで自粛している方も多いと思います。その中でとても面白く、いい意味で残酷に北朝鮮の断片をお撮りになったと思います」と監督の映画化までの苦労をねぎらった。さらに「ほんとに変な言い方ですけど、楽しみながら観ましたし、考えさせられ、また自分自身の家族のことや自分が北朝鮮の体制の中にいるような教育を日本で受けてきたので、自分の生い立ちに関しても改めてたくさん思い出しました」と自身の境遇に思いを馳せた。

「もともとはどのような映画を作ろうと思って北朝鮮側に許可をもらったのか?」との質問に、マンスキー監督は「私が当初作ろうとした作品は実現しませんでした。北朝鮮に入った最初の数日で、(作れないと)すぐにわかって、そういう条件の中で、巨大なリアリズム、そのスローガンがその通りに行かない、結局逆説になっていく、そのような作品になっていく、しかしそうするしかないなと思った」と本作が当初思い描いていたような作品にすることができなかったと話し、「撮りたかったシーンはすべて禁止された」と激白した。

北朝鮮の空港に着いてすぐ撮影クルーは全員パスポートを取り上げられ動くことができなくなってしまい、滞在した平壌通りのホテル(部屋の明かりを全部消して)窓からの撮影を余儀なくされたという。「しかしその撮影すらも最も快適で、その他の撮影は戦時体制中とか敵の中で撮るとか、とても快適ではない状態の中で撮影が進められた」と過酷な撮影状況だったことを明かした。

ヤン・ヨンヒ監督から「撮れた映像の中で、撮れているけれども編集の段階で、この家族の安全を気遣ってカットした部分や諦めたシーンなどはありますか?」との質問に、「この映画をご覧になればわかるのですが、この家族はすべて言われたとおりに、一切違反せずに演じているんです。その3人の一人一人は自分の心から願うことややりたいことを一つもやっていません。ですからこの家族は北朝鮮の役人たちが示した決まりみたいなものを一切違反してないんです。だから編集の段階で安全を守るためにするべきことは何もなかった。しかしながら言い添えますと、だからと言ってこの家族の安全は保障されているというわけではないのです。この国では誰もが自分の身を守る保証を得ているとは限らない。でもこの家族に今の段階で一体何が起こったのか私は知っています」と話した。

「この『太陽の下で-真実の北朝鮮-』が様々な国で評判になり、いろいろな反響があったことで北朝鮮の上層部も観てそれで上層部は何をしたかと言うと、ジンミちゃんを子供たちの英雄に祭り上げたんです。北朝鮮の幸せな社会・家族の象徴として。そして今ではジンミちゃんは最も北朝鮮で有名な子供になり、家族は成功の証しとされている」と主演のジンミちゃんと家族の様変わりした現状を聞かせてくれた。「海外に情報を出している北朝鮮の機関では、これ(本作に)に反対する様々な情報を出しており、私に関しても言葉に表せないような最高の罵詈雑言を発している」と監督は表情を曇らせた。ロシアの外務省に北朝鮮から公式の通達として「公開上映の禁止、フィルムの破棄、監督を罰しろ」と来たことも告白。しかもこの通達には「米国・韓国・日本の反北朝鮮の手先だ」との懸念も記されていたと。監督は今ロシアに住んでおらず、ロシア政府から監督に何かできるわけではないと知った北朝鮮から「ジンミちゃんがとても私を懐かしがっている、だから家族が私を平壌に呼んでとても重要な話がしたいと言っている」と監督を北朝鮮に来させるための明らかな嘘が記された手紙を貰ったそう。

本作はロシアでは「ドキュメンタリー映画としてはロシアで最高の収益を記録した」そうだが、「公的な映画館が公開日の3日前に上映を取りやめるなど、紆余曲折を経て結局民間の映画館でのみの公開になってしまった」と悔やんだ。

ヤン・ヨンヒ監督に「(監督は)旧ソ連出身だから、北朝鮮のような体制には免疫があると思うのですが、それでもビックリしたりあきれたことはあったのか?」と問われると、「私は北朝鮮で起こっていることがよくわかります。ですから個人的に北朝鮮に住む人々一人一人に一種の共感というか同情というか、一緒に苦悩を共にしたいという気持ちを持っている」と答え、「体制が変わったりしたらまた北朝鮮で映画を撮りたいか?」との質問には、会場のお客さんを見渡して「ここにいる皆さんが生きている間には北朝鮮のシステムが変わることはない」ときっぱり。それにはヤン・ヨンヒ監督も「断言しましたね。私はいつも濁すのですが、、しかし私も期待は全くしていない」と同意。「そして私も北朝鮮に入国できない身なので、勝手に同志のような気がしている」と監督への親近感をにじませた。さらに「私も(北朝鮮にいる)姪っ子をホームビデオのようにして撮影したドキュメンタリーを撮ったので、ぜひ監督にも観てほしい」と伝えた。逆にマンスキー監督からも「もし体制が変わったら、本作の出演者たちが撮影当時どう思っていたのか、そういったことを映画にしてほしい」とオファーを出した。

最後にヤン・ヨンヒ監督は「カメラが無いときの、映ってないときの彼らのことを考えながら映画を観てほしい」とメッセージ。マンスキー監督も日本の観客に本作に向き合う際は「心を開いてください」とアドバイスを送り、トークイベントを締めくくった。

映画『太陽の下で-真実の北朝鮮-』は2017年1月21日、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー。