南沙良「主人公と自分が重なり、近親憎悪に似た感情を持つこともあった」『もみの家』囲み取材レポート

『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』でブルーリボン賞新人賞ほか数々の新人賞を受賞した南沙良を主演に迎え、心に問題を抱える16歳の少女が、若者の自立を支援する施設“もみの家”で成長していく姿を描く、『真白の恋』の坂本欣弘監督最新作『もみの家』が、2020年春に公開される。このほど、4月1日に本作がクランクアップし、ロケ地富山県砺波市にある“もみの家”の居間にて囲み取材が行われ、キャストの南沙良、緒方直人、田中美里、そして坂本欣弘監督が作品への思いを語った。

取材当日、砺波市は天候不安からうって変わって快晴に恵まれた。一年間にわたる長い撮影を終えた本作。クランクイン前は室内に蜘蛛の巣が張る空き家だった場所は、スタッフや、寮生、そして緒形と田中が演じた佐藤夫婦の手によって愛情あふれる場所になっていた。

それぞれクランクアップの心境を聞かれると、南は「最初の頃は出口のないトンネルを歩いている心境でした。自分に重なる部分もあって、近親憎悪に似た感情も持ちました。いろんなことが重なって、自分の中で気持ちの整理がつかなくなっている時もありましたし、足並みを揃えるのに苦戦した時期もありました。でも彩花の気持ちになって、何かが変わっていくことを感じることができました」と彩花という役柄と自分との重なりに苦戦したことを明かした。それぞれの四季に合わせた撮影が行われ、その都度側で南を見守っていた坂本監督も「みるからに成長していました。役としても成長しているのを感じることが出来ましたね」と南の苦戦の中でも成長した姿に手応えを感じている様子。緒形は「富山の四季を足掛け一年かけて撮影するというのはなかなか贅沢なことで、映画で一年かけるのはデビュー作以来だった。監督のこだわりや情熱、細やかさがあって、いい緊張感のある状態で芝居ができた」と語り、田中は「経験したことないような、昔ながらの時間をかけて丁寧に撮っていく工程が、幸せでした。カレンダーを見なくても四季を感じることはできる、当たり前のようでいて、そうでない贅沢な経験でした」とそれぞれに、時間をかけた分だけ込み上げてくる思いを丁寧に口にした。

主演の南は、演じた彩花と同じ16歳、撮影開始時は15歳だった。南の印象を聞かれた緒形は「繊細な心の動きを表現できる人。いつもニュートラルだからこそ、芝居に慣れ過ぎることなく、その都度新しい。これからも見ていきたいですね。あとは彼女のいいところは笑顔だと僕は思ってる。この映画でも少なからず、いい笑顔が見れます」と話した。田中も「最初会ったときは大人っぽい、動じない子だなと感じました。でもその中にも15、6歳らしい愛らしさ、繊細さを持っていて、彩花と重なる部分もありました。現場では、常にカメラの前で彩花としていてくれていて、でもそれはなかなか簡単にできることじゃないと思うんです。そう言うことができる女優さんですね」と南を優しく見つめながら語った。大先輩二人の口から自身についての大絶賛の言葉が飛びだし、南は終始嬉しそうに口を手で抑えながらも喜びを隠しきれない様子だった。

さらにロケ地富山の印象について聞かれると、「一番最初に台本を読んだときに、文字から美しい景色がなんの苦もなく見えて来ました。撮影がすごく楽しみだったことを覚えています。神奈川出身なので、自然に触れ合う機会が少なく、恵まれた毎日空気が違う新鮮な環境の中で、一日一日を丁寧に重ねることが出来たんじゃないかなと思います」と南。続いて緒形は「二年前に『散り椿』で初めて富山で撮影しました。あまりの空の美しい青さに感動して、水がうまくて、そこで四季を通し撮影できる喜びを感じました。大事な場所になった」と静かな中にも熱い思いをのぞかせた。富山の隣県石川県出身の田中は「母が富山出身で、親戚もいて毎年来ていました。(もみの家の周りと同じように)畑に囲まれた家があって、タクシーに乗って「~~さん家」といえば、そこに連れていってもらえた、そういう暖かい思い出があります。あとは、夜真っ暗になって、その分、星が綺麗だと思って感動したり、雪の日のしんとした空気が、雪が降って寒いという感覚じゃなく逆に暖かみを感じた、不思議な感じがありました。子供の頃と同じ感覚に呼び戻された気がしました」と昔も今も変わらない富山の暖かみを実感たっぷりに口にした。

本作は、坂本監督たっての希望で、富山・散居村の美しい景色の中で撮影された。さらに前作製作の前から長年温めて来た題材ということで、クランクイン前には実際にある自立支援施設にも取材に行ったという。「15、6歳の少女の成長を描いた作品が作りたいとずっと思っていました。実際の施設にも取材に行きましたが、それをイメージして『もみの家』を作った訳ではないんです。場所や人が変われば話も変わる、特別なことじゃなくこの世の中そう言うことはたくさんあると思うので、あくまでも自分の考える、この場所での、今の子供の問題について物語にしたいという思いがありました。不登校、引き込もりだったり、その当人や親や友達たち、この映画を観た人たちが一歩を踏み出せるための作品になるように取材をさせていただきました。あと、いざロケ地や場所決めになった時、地域の方々に多大なる協力を頂き、その暖かさもまた映画の中に反映されていると思います」と語った。

監督の熱い思いを聞き緒形も「この場所で農業をやり、みんなで協力して生活しながら、自立を促すのはとてもいいと思いました。場所や人が変われば話も変わる、監督の言う通りで今回の舞台は富山だけれども、こういう物語を描く上で、あえて特定の場所に限定することもないとも思いました。僕は子供達を留学させてたので、あっちでの環境はどうだったのかとか、この映画を通してよく家族で話すことが多くなりました。人はだんだん強くなっていきますけれども、ガラスのような繊細な心だったときは誰にでもあると思います。どういう作品になるのか、来年公開を楽しみに待ち続けたい」と自身の気持ちを述べ、田中は自身の役を振り返り「わたしはみんなの母親のような役割だったので、それぞれの子がいろんな問題を抱える中で、どのくらいの優しさで接すればいいか、一人一人への距離感が難しいと思う時もありました。子供達は個性がバラバラで、それこそ良いとこもあって悪いとこもあって、認め合い支え合い、子供達を焦せらせることなく、じっくり向き合う時間が大切なんだなと強く感じました。生き急いだりしんどいと思った方、この映画を見て見つめ直して、自分を可愛がってもらえたらいいなと思います」とコメント。さらに、南は「私自身一年通して、出会いと別れの眩しさだったりたくさんの刹那を強く感じることが出来ました。生活の中で、少しでも息苦しさだったり閉塞感を感じたことのある人の心の中に、何かを残せる作品になっているんじゃないかと思っています」と、たくさんの経験と、それにより生まれ気持ちを丁寧に笑顔で語った。

『もみの家』
2020年春、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
富山県(TOHOシネマズ ファボーレ富山、TOHOシネマズ 高岡、JMAXシアターとやま)先行ロードショー
監督:坂本欣弘
脚本:北川亜矢子
出演:南沙良 緒形直人 田中美里
配給:ビターズ・エンド

【ストーリー】 心に問題を抱えた若者を受け入れ共同生活を送る“もみの家”に、16歳の本田彩花(南沙良)がやってきた。不登校になって半年、心配する母親に促され俯きながらやってきた彩花に、“もみの家”の主・佐藤泰利(緒形直人)は笑顔で声をかけた「よろしくな、彩花」。周囲に暮らす人々との出会いや豊かな自然、日々を過ごす中で感じ取った大切な“なにか”に突き動かされ、息苦しい時間を過ごしていた彩花は少しずつ自らの気持ちと向き合あっていく…。

©「もみの家」製作委員会