【全起こし】町山智浩&樋口毅宏が脱線トーク全開!「キャラの濃い悪役がめちゃくちゃ面白い(町山)」映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』公開直前トークショー

1975年から日本で放送開始し、’79年からイタリアでも放送された永井豪原作のアニメ「鋼鉄ジーグ」をモチーフにした『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』。その公開直前トークイベントが行なわれた。映画評論家の町山智浩、作家の樋口毅宏が登壇し、「鋼鉄ジーグ」の思い出から本作の魅力、果ては東京五輪の開会式まで、話題は多岐に渡った。今回はその模様を全文掲載する。

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MC:本日はお越しいただきまして、誠にありがとうございます。本日はゲストの方をお呼びしております。見どころなど語っていただいてより一層映画を楽しんでいただければと思います。ゲストの方は映画評論家の町山智浩さんと、「さらば雑司ヶ谷」や「タモリ論」で知られる作家の樋口毅宏さんです。それではご入場、お願いいたします。

樋口:どうもどうも、こんばんは。
町山:もう任せたから(笑)
樋口:なんでですか(笑)、特に映画マニアというわけではなく、一般層の方から選ばれているらしいと聞いています。ですから、「鋼鉄ジーグ」を子供の頃に観ていなかったという方が多いと思います。この中で「鋼鉄ジーグ」を子供の頃観ていたという方いらっしゃいますか? 6人ぐらいですよね。
町山:全然いないね(笑)
樋口:町山さん、僕なんか子供の頃初めて買ってもらった超合金ロボが「鋼鉄ジーグ」なんです。本当に。
町山:本当に?
樋口:その時4歳、5歳なんです。だからあれがこんなふうになって、イタリアに行って、こんな風な形になって帰ってきたんだというのが、僕なんかはすごく強いです。
町山:僕は「鋼鉄ジーグ」の放送が始まった時は、中学生くらい。だからもうアニメとかは観ていなかった。
樋口:あっ、そうですか。
町山:これ「笑点」の裏番組じゃない? 違う、「いなかっぺ大将」の裏番組かなんか? なんかその辺ですよ、日曜の。
樋口:すごいコンテンツですね。
町山:裏がすごく強くて、しかも日曜の夜5時、6時くらいって、家族が全員そろってるじゃないですか。だから、この番組(「鋼鉄ジーグ」)を見せてもらってた人は、家族が崩壊している家なんですよ。
樋口:アハハハハ。うちは崩壊してたんだ。知らなかった。
町山:だって普通、親がいたら安全な方に振るじゃん。こっち観ている人っていうのは、母親や父親が茶の間にいないんだよ。日曜の5時半から7時までは子供がチャンネル権、取れないじゃん、日本って。
樋口:取れないですね。
町山:でしょ。だから、これ観てた人は家庭崩壊していると思うよ。
樋口:そっか、そんな家で育ったから、こんな風な俺になったのか…。
町山:なんで観てたの?
樋口:だって子供の頃やっぱりアニメ好きですし、戦隊ものとかヒーローものって好きで観ますよね。
町山:親は許してた?
樋口:全然、全然。
町山:あぁ、そうなんだ。日曜の夜って恐ろしくて、永井豪原作の「鋼鉄ジーグ」を夕方やっていて、夜7時から永井豪原作の「UFOロボ グレンダイザー」をやっていたんだよ。
樋口:「~グレンダイザー」ももちろん観ていました。
町山:一日に同じ原作者の番組が2本やっていたんだよ。
樋口:異常ですね。
町山:石森章太郎はしょっちゅうだったけどね。
樋口:永井豪のお師匠さんにあたる方ですね。
町山:そう。だから永井豪バブルの時のアニメですね。
樋口:その流れで思い出したんですけど、僕は「デビルマン」も好きだったんですが、あれは日曜夜8時からだったって聞いたんですけど…。
町山:違う違う、「デビルマン」は土曜の夜8時半。裏が「全員集合」だったから、大変だったの。「全員集合」と「デビルマン」をガチャガチャして観るっていう、すごい状況だった。
樋口:2本が2本、あの内容なのに。忙しい、当時の子供は。
町山:大変だったよ。当時は鬼のようなコンテンツが多くて。

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樋口:恐ろしい時代だ。すいません、皆さんついてこれてますか? すごくいい話を聞きました。本当に超合金で遊んでいたから、思い入れがあるんですよね。それがまさかこんな風な形で、こんな風になるとは。町山さん、近年、こういう形って多いですよね?
町山:多い。
樋口:ついこの間、去年ぐらいですか『マジカル・ガール』がやっぱり同じように、日本のアニメの・・・。
町山:「セーラームーン」みたいなやつね。
樋口:それが、スペインに行って、子供の頃観ていた監督が影響を受けまくって、土台にしてああいう映画を作っちゃうように。
町山:「セーラームーン」ってもう20年以上前の作品なんだよね。
樋口:恐ろしいですね。
町山:世界中で結構ね。「ウルトラマン」も結構。アメリカでは「ウルトラマン」世代って50歳くらいなんだよね。だから『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガンも「ウルトラマン」世代だよね。とにかく「ウルトラマン」はアメリカでものすごく当たったからね、アメリカで。
樋口:そんな印象がないんですけどね。
町山:「ウルトラマン」が当たったというのが良く分かるのが、次の「ウルトラセブン」って全く日本的要素を完全に切り落として撮影されているんだよ。どこの国かわからなようになってる。日本家屋とか一切出てこない。あれは海外に売るためだよ。
樋口:ちょっと待ってください、じゃああの「ウルトラセブン」の飛び切りの名シーン、モロボシ・ダンとメトロン星人が狭いアパートの中でちゃぶ台を挟んでのあのシーンは…。
町山:あれだけでしょ? 
樋口:うん。
町山:すごい反対されて、実相寺昭雄監督が強行して撮っているんですよ、あれは。日本的要素を入れないってことで、海外セールスするために撮っているから。
樋口:(海外セールスすることを)大前提でやっていたんですか?
町山:大前提でやっている。まあそれをぶち壊すのが実相寺昭雄監督。
樋口:さすがですね。
町山:そう。最近、「パワーレンジャー」がハリウッド映画になったじゃないですか。戦隊ものはずっと昔からアメリカだけじゃなく全世界に行っているんですよ。特撮シーンは日本で撮ったままなんですよ。人間ドラマの部分だけその国の俳優を使って撮ってる。黒人がいてアジア人がいて白人がいてラテン系がいてって人種をばらけて、子供が誰でもアイデンティファイできるように作ってあるんですよ。特撮シーンとか怪獣が出てくるシーンは全部日本のままなんで、電柱とか映っていて、「○○神経外科」とか書いてあって、すごく謎な世界になっているよ。特撮シーンだけは完全に日本の練馬あたりで撮っているのがモロ見えなの。
樋口:訳が分かんないですね。
町山:アメリカの子供たちは戦隊もの観ながら頭混乱していると思うよ。これどこの国だろうって(笑)。
樋口:ほかにも近年だと、ブラジルで大ウケした「聖闘士聖矢」とか、「ドラゴンボール」もフランスで流行って。フランスで格闘技大会があると、オレンジ色で半袖の胴着だったりするんですよね。去年のオリンピックの閉会式で安倍首相がマリオをやったような。
町山:でもちゃんとチョビヒゲを付ければ良かったよね、安倍さんは。それで出てくれば良かった。大問題になるだろうけど(笑)。
樋口:いっそのこと東京オリンピックやるなら、開会式とか閉会式は人間とかやめて、全部ゲームキャラやアニメキャラでやった方が、世界中でスゲ~ウケるんじゃないかなって。
町山:そう思うけど、どうせ秋元康と村上隆が仕切るから。それでAKBとかゾロゾロ出てきてエグザイルが踊ってっていうのになるからさ。
樋口:どうせ宮崎駿はキャラ貸してくれないし。
町山:宮崎駿は協力しないだろうね。「絶対、嫌だ」って言うだろうね。だからEXILEとAKBだからみんな諦めた方がいいと思いますよ、オリンピックは(笑)。でもEXILEは分からないよ。今、違う方向に行ってるじゃん、彼ら。『マッドマックス』方向に行ってるじゃん。今の黒服系じゃなくて完全に『マッドマックス』でオリンピックを制覇したら、それはそれでいいと思うよ。
樋口:なんでアメリカに住んでEXILEまでチェックしているのかな? 好きじゃないと言いつつ(笑)。
町山:やっぱ『マッドマックス』が好きだから。AKBもみんな『マッドマックス』になって、片腕とかない状態で、頭丸坊主で…。AKBに丸坊主いたじゃん!(笑)。
樋口:あ~、いた(笑)。
町山:あれがトラック運転すりゃいいんだよ。AKBはハード路線、『マッドマックス』路線に移行。イモータン・ジョーが秋元康。イモータン・ジョーな感じじゃん、なんか。それで「あたしのこの腕、覚えてるか!」、バーンッ!って、そういう展開だね。
樋口:誰かが投げたブーメランが返ってきて指チョンパのシーンをやるんですか?
町山:分かんないけど、さっしー(指原莉乃)じゃん?
樋口:指だけに?
町山:そう! 何の話なんだ?

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樋口:「鋼鉄ジーグ」でした。『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』は本当に全編(「鋼鉄ジーグ」を)リスペクトです。
町山:そうでもないよ。
樋口:そうですか? 本当に「鋼鉄ジーグ」のアニメのシーンもところどころ出てきますし、歌も出てきますし。
町山:でも基本的にヤクザ映画だよ、これ。
樋口:確かにヤクザというか、チンピラ感ですけどね。
町山:でも(本編中で)「ナポリのヤクザが来るから怖い」て言っているじゃないですか。
樋口:言ってますね。
町山:ナポリのヤクザって、マフィアより怖いんだよ。『ゴモラ』って映画観てません?
樋口:観ました、観ました。
町山:あれは実録ものなんですけど、ナポリっていう街自体をカモッラっていう犯罪組織が政治的に仕切っちゃってるんですよ。今も確かそうなんですよね。政治家どころか、経済から何から何まで全部管理しちゃってるから、全く反対できなくて、ジャーナリストも次々と殺されて無法地帯になってるんだよね、『ゴモラ』を観た限りね。だから皆、ナポリタンなんて言ってるけど、すごい恐ろしいものなんですよ、ナポリタンってのは。本来、指が入っているようなもんなんですよ。
樋口:なるほど。
町山:「ナポリタン、好き!」なんて言ってると、「おめぇ、やるな」って言われるんですよ、イタリアだと。そのカモッラがいるってことに皆ビビッているんですよ。なんで「ナポリの奴らが」ってビビッているかは、カモッラが世界最悪のヤクザ軍団だから。そういう話なのよ、これ。
樋口:なるほど!
町山:そのカモッラとの間に立っているのはローマのヤクザの彼(主人公)なんですよ。ローマなのにナポリ者に仕切られているのが気に食わないわけですよ、彼は。だから東京だとすると、山口組と戦っている地元のヤクザなわけですよ。
樋口:町山さんは悪役のジンガロを推していますよね。
町山:だってめちゃくちゃじゃん、彼。
樋口:どういう感じの人なんです。
町山:キャラがすごく濃くて、何にも考えてないよ、この男。
樋口:何にも考えなさすぎですけどね。主人公よりキャラ立ってるじゃねえかっていう。
町山:めちゃめちゃ面白くて、主人公は地味なんですよね。
樋口:得てして、ヒーローものって主人公はあんまりにも正統派すぎて、相手の悪を引き出すっていうことが多いんですよね。
町山:「スパイダーマン」もそうですけど、主人公がもうひとりの自分と戦うっていう、スーパーな力を手に入れたのに悪に使っている者と戦う展開。
樋口:バッドマンとジョーカー的な。
町山:そういう伝統的なところは引き継いでいるんだけど、ジンガロはアメリカのスーパー・ヒーローものには絶対に出てこれないようなキャラ。
樋口:難しすぎます(笑)。
町山:これ放送できないよって人だから、すごく面白くて。しかもキャラ立てがすごく変で、素人のど自慢大会で優勝したことがあるっていうのが彼の誇りで、夢はYouTuberっていう(笑)。
樋口:お前、日本の小学生かっていう(笑)。
町山:すごい、いいキャラなんですよ、これが。そのジンガロが歌っている歌がイタリアの歌謡曲なんですよ。
樋口:それは知りませんでした、気が付きませんでした。
町山:80年代のヒット曲ばっかり歌ってるんですよ。
樋口:町山さん、なんでも詳しいなぁ。
町山:彼が劇中でiPhoneかなんかで音楽を流すシーンがあって、そこでナーダっていう歌手の歌を流すんだけど、ナーダが最近リバイバル・ヒットしてるのよ。この間フランスで作られた人食い映画の「RAW」でもナーダが使われていた。ナーダは昔日本でもヒットしてるの。「恋のジプシー」っていう歌がヒットして、日本でもカバーしてるんですよ。昔、イタリアン・ポップスが、本国でヒットすると、同時に日本でもヒットする時代があったんですよ。だから、ヒデとロザンナがいたの。ヒデとロザンナのロザンナがデビューしたかっていうと、イタリアン・ポップスのブームがあって、本場のイタリアの女の子を連れて来たっていうのがウリだったの。
樋口:知らなかったですね。
町山:ヒデとロザンナって知らないか、皆。「アモーレ、アモーレ」って歌うんだけど、なぜイタリア語で、イタリア人でなければならなかったのか。イタリアン・ポップスが本当に日本でヒットしていたの。
樋口:そんな時代が…。
町山:そんな時代があったの。サンレモ音楽祭っていうのがあって、文化放送と提携して新宿音楽祭とリンクしていた。新宿音楽祭で優勝すると、サンレモ音楽祭に出れますよって言って。サンレモ音楽祭はイタリアン・ポップスの最高峰なんです。司会者は文化放送の局アナだからみのもんたですよ。そういう時代があったんですよ。ジリオラ・チンクェッティとか。知っている人いるかな? 知っている人いますね。
樋口:すごい。
町山:「雨」っていう歌が大ヒットしたんですよね。サンレモで出てきた人なんですよ。ジンガロが歌ってる歌はサンレモで優勝したことがある歌手ばっかり。そういうイタリアン・ポップスのオタクなんですよ、彼は。だから日本だと、80年代の歌謡曲ばっかり歌うヤクザって、なんだろうね。オフコースとかを歌いながら人を殺しまくる奴。「さよなら~」とか言いながら(笑)。そういう人ですね。
樋口:触れっちゃってる人ですね。
町山:でもオフコースの歌ってひどい歌詞だよ、あれ。良く歌詞聞いてる?
樋口:僕、ファンクラブ入ってたんですよ。
町山:じゃあ、何で許すの、あんな歌を?
樋口:中学生の時ですから(笑)
町山:「君を抱いていいの?」って、あの歌ひどくないか?
樋口:「Yes-No」ですね。
町山:自分のこと愛していないのに、ほかの男に振られて気落ちしている女をやっちゃうって歌だよ。
樋口:そういう解釈、浜田省吾の「もうひとつの土曜日」じゃないですか。
町山:でもほんとにそうだよ、あの歌。「やっていいの? やっていいの?」って。
樋口:「君を抱いていいの?」「好きになってもいいの?」。
町山:すごい漬け込んでいる男だよ? とんでもないよ、オフコースって。(ジンガロは)もう完全にオフコース歌いながら殺す奴だと思ってるもん、完全に。「悲しい熱帯魚」を歌いながら殺すみたいな、そういう人ですよ。よく分からないけど(笑)。
樋口:これ全然、ネタバレじゃないですから大丈夫です、ご安心ください。

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町山:珍しい組み合わせですよね、サンレモ音楽祭と永井豪っていうね。永井豪は実際、「鋼鉄ジーグ」で何もしてないですけどね。
樋口:そうなんですか?
町山:そうですよ。だって忙しくてできないよ、あの頃。アシスタントの人が基本的にやってるんですよ。名前貸しですよ、ほとんど。基本的なアイデアは出してんだけど。「鋼鉄ジーグ」ですごいのは、お腹のところからビームが出るんですけど、あのデザインはギレルモ・デルトロの『パシフィック・リム』のジプシー・デンジャーでパクってるよね。『パシフィック・リム』のロボットはいろんな日本のロボットのいいとこ取りして作っているから、昔駄菓子屋で売っていた無許可のガンダムのようなさ、ガンダムのようで全然違うものみたいな。そんなものがハリウッドの超大作で動いてるって、とんでもねぇ時代だなって思ったよ、『パシフィック・リム』って。バッタ物が動いてるって(笑)。これ(「皆はこう呼んだ~」)は許可取っているのかな? 東映だよね? 東映ほど著作権にうるさいところはないからね。ここほじくると大変で、映画会社も東映との関係はビビッていると思うけど。
スタッフ:許可取ったらしいです。
町山:ほんとに? 偉いなぁ(笑)。永井豪っていう人はヨーロッパとかアメリカではカリスマなんですよ。「スパイダーマン」の原作者のスタン・リーと同じレベルで。「マジンガーZ」やって、「キューティーハニー」やって、「デビルマン」やって、「UFOロボ グレンダイザー」やって。「グレンダイザー」なんてフランスじゃ国民的アニメだった。だからいろんな映画祭に永井豪さんは呼ばれるらしいんですよ。そこで「豪邸に住んでる億万長者なんでしょ!」って聞かれるけど、全然そうじゃない。日本の漫画家って。あの手塚治虫さんでもそんなに金持ちじゃなかったですからね。
樋口:そうですね。
町山:全て東映が持っていったっていうね。本当にひどい話なんですよ。そういうものですよ、昔は大変だったんですよ。だから版権管理を出版社がやるようになって、またそっちも搾取してるんですけど。全然違う業界の批判をしていますが(笑)。漫画家はその当時は結構、かわいそうだったんですよ。
樋口:まあ今回は映画のチラシにもパンフにも永井豪先生のコメントもらっていますし、「デビルマン」のようなことはないわけですよ。昔、「デビルマン」の実写映画が公開された時、試写室から出てきた永井先生の一番初めに言った一言が「取り直した方がいいんじゃないかな」だったと。今回はそういうことはないので、安心ですよと。
町山:後半でちゃんとしたヒーロー・アクション、特撮アクションになっていくんだけど、最初はどの方向に行くんだろうと思ったけど、後半はスーパー・ヒーローものになるんでホッとしたよね。
樋口:こういうスーパー・ヒーローものって、皆さんお気づきだと思いますけど、「スーパーマン」でも「スパイダーマン」でもそうですけど、ストーリーというのは大体、ある種決まっているもんです。構成で言うと、1、うだつの上がらないどうしようもない男の子、男がいて、2、何の努力もせずいきなり特殊能力を身に付け、3、女の子とラブ・ロマンスがあり、4、正義の側に立って敵と戦うっていうのがあるんです。この物語も、監督のセンスというか、今まであった既成の作品から、パクるというか、取捨選択をして、こっからこの要素を取っているなというのが、必ず皆さんお気づきになるところがいっぱい出てくると思います。そういう楽しみ方もあると思います。
町山:『攻殻機動隊』にも似てるよね。
樋口:『悪魔の毒々モンスター』もありつつの。そういうのが、「オマージュ入れすぎだよ、この監督」っていうね。
町山:必ず最初の方は、こういうダメ人間ってオナニーするんだよね。
樋口:やることがそれしかないんですよね。
町山:サム・ライミ監督の『スパイダーマン』の1作目がそういう感じで、糸が出るようになった主人公が、部屋の中で閉じこもって糸を出しまくっていると、おばさんが「何してんの!?」って来るところがあって、「何もしてないよ!」って言うところが、完全にそういう(笑)。
樋口:メタファーですね。
町山:メタファーとして演出しているから、めちゃめちゃ面白かった。もともとジェームズ・キャメロンがシナリオを書いていて、キャメロンのシナリオだと糸出した後に牛乳を飲みまくるっていうシーンがあって、めちゃめちゃおかしかった。あれはたんぱく質なのかっていうね(笑)。
樋口:分かりますね、そういうのはちゃんとね。
町山:そういう比喩物はちゃんとやってますよね。『キック・アス』がそうだったよね。『キック・アス』は年増好みなんだよね。高校の先生を見ながらオナニーしているシーンがあったけど、あれもおかしかったね。
樋口:こういう物語の必要不可欠として、特殊能力を身に付けた主人公は、一番初めに何をするか。等身大の主人公の本来一番やりたかったことがどんな作品でも明らかになるんですけど、それも注目して観てみてください。
町山:たいてい、しょうもないことをするんですけどね。
樋口:透明人間になった奴が一番初めに女湯や女子の更衣室を覗きに行くのと同じようなもんです。大体、そういうもんです。本来、一番初めにある願望です。
町山:神経に目覚める前は、どうでもいいことに使っちゃうんだよね。
樋口:ろくでなしが主人公です、そう思っていただけたら。
町山:なんで樋口さん、これ(トークショー)に出てんの?
樋口:やっぱり面白かったからですよ。それと、「鋼鉄ジーグ」に思い入れがあるから。それは大きいですよね。
町山:砂場で遊んだりした?
樋口:やりました。
町山:磁石が付いてるから(超合金が)砂鉄だらけになるよね。
樋口:すごい悲しくて、汚れた気持ちになるんですよね。家に持ち帰ってばあちゃんに怒られた、怒られた。
町山:そういう砂鉄込みの思い出で。
樋口:苦い思い出が、砂をかむような思いが。
町山:この監督は何歳ぐらいなんですか? 
MC:39歳です
町山:えっ?じゃあ本放送は観てないんじゃないの?
MC:再放送で観てたそうです。
樋口:帯で観ていたそうです。
町山:そうなんだ、イタリアではずっとやってるんだ、ぐるぐる回してね。
樋口:「巨大ロボの鋼鉄ジーグは出ねぇんだ。じゃあ観ねえよ」っていう人がいるそうですけど、杉作J太郎先生が「ここまで日本人の民度は落ちたのか」と嘆いていました。ここに集まっている方はそんなことはないと、僕は信じております。その期待に応えられる内容の映画になっていると思います。

『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』
2017年5月20日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
監督:ガブリエーレ・マイネッティ
出演:クラウディオ・サンタマリア
配給:ザジフィルムズ
公式HP:http://www.zaziefilms.com/jeegmovie/