【全起こし】ダルデンヌ兄弟が自分流の映画作りを丁寧に語る「映画というのは事故みたいなもの」

MC:ありがとうございます。では今の質問の間に何か浮かばれた方いらっしゃいますか?(シーン)いいんですか!? せっかくティーチインの形式を取っているんですが、私と監督のやり取りを聞いていただくことになってしまいますが。(ここでひとりの女性が挙手)

Q:そもそも何でこの作品を作ろうと思われたんでしょうか。

L:ほかの映画で医者を主役にしようと思ったんですけれど、うまくはまらなくて、今回の映画はまずお医者さんを主役にしようと思ったんです。女医さんにしようと。普通はお医者さんですと、人の命を救うとか、治療によって死から遠ざけるということを期待されますが、医者の使命とされていることの逆を設定してみようと。彼女が扉を開けなかったがために、ある人が死んでしまうと。その責任を感じる、そういう設定にしようかということから始まったんですね。その亡くなる女性は黒人のアフリカ人で、不法入国をしていて、不法入国をしているがために滞在許可書やパスポートも偽の物しか持っていないと。そうするとその人の本当の名前も分からないわけですね。遺体は川のへりで見つかるわけですけれども、水の近くで見つかると。それはまさにヨーロッパの今の現状、移民や難民が押し寄せていると。しかし到着する前に地中海で海のもずくとして、ボートが沈んでしまって亡くなっている移民に重ね合わせるようなかたちでこの作品を作ることにしました。ヨーロッパが彼らを直接殺すわけではないんですけど、結局、経済状態がとても悪い、あるいは流血のあるような政治の国から彼らは逃げてくるわけですね。そのときに私はすごくたくさんの人を小さなボートに入れてしまったりとか、あるいはボートもちゃんとしたボートではなくて、ヨーロッパに来る前に300人、400人、500人と海に沈んでしまうと。ヨーロッパの国境が閉ざされてしまった状態にあるためにこういう事態になっているということを題材にしようと思いました。

JP:扉を開けなかったがために若い女性が死んでしまう。初めはそれが分からないわけですが、そのことをこの女医さんは教えてもらうわけですよね。自分があのとき扉を開けなかったからこの人が死んでしまったんだということで責任を感じて、もちろん殺したわけではないんですけど、扉を開けていれば助かったかもしれないと責任を感じるわけです。それで何かを償おうとしてその女性が誰なのか、名前をちゃんと見つけたいと。名前の分からないままそのまま放っておいてしまったら、もう一度殺すのと同じことになってしまうから、それだけは避けたいということで必死に名前を探すという話にしたんです。

Q:警察が名前が分かったというときの名前と彼女のお姉さんという方が言っていた名前が違っていたと思うんですけど、それは警察がいい加減な仕事をしているということなのか、どういう意図なのか分からなかったのですが。

L:警察が名前を言うんですけどそれはパスポートい書いてあった名前なわけですね。警察もこの名前が本当の名前かどうか分からないと。パスポートが本当のものかどうか分からないということで大使館聞かなければならないと言うんです。この物語の中ではあとでお姉さんがやって来て、売春を斡旋していた男が妹に偽のパスポートを渡して、その偽のパスポートの名前と妹の本当の名前が違うということを言うんですね。なので(警察が言っているのは)偽のパスポートの名前なんですよ。たぶん、警察の続きを探っていけば1週間後には大使館からこの写真の人物はこの名前とは違いますということが照合されて返ってくるだろうということですね。

途中で黒人の男と白人の男が一緒にいましたが、小さなマフィアで彼らが仕組んでいたわけです。警察に主人公が行ったときにサイバーケフェにちょこちょこ顔を出したらせっかく麻薬捜査をしているのにそれが失敗してしまうと言ったんですね。マフィアが麻薬に関わっていて偽パスポートを作って女の子に渡して売春させていたわけです。女の子は未成年だったので本来はそういうことはできないけれども、偽の証明書を渡してやらせていたんですね。とお姉さんが話したと。
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MC:ありがとうございます。ではほかに質問ある方いらっしゃいますか。