【全起こし】山下敦弘&松江哲明「カンヌで賞を取るために必要なものはたぶん“魂”」

『4ヶ月、3週と2日』はパルムドール、『汚れなき祈り』は脚本賞と、作品出すたびにカンヌ国際映画祭で高く評価されているルーマニアの新鋭クリスティアン・ムンジウが、またもや第69回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した『エリザのために』。現在放送中のドキュメンタリー・ドラマ「山田孝之のカンヌ映画祭」でカンヌを目指している山下敦弘監督と松江哲明監督が、本作の上映後にトークショーを行なった。以下はその全文。

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エリザのために★メイン小
MC:ご覧になっている方もいるかもしれませんが、今、話題のテレビ東京で放送されている「山田孝之のカンヌ映画祭」という番組がございまして、カンヌでパルムドール=最高賞を取るために奮闘するというもので監督をされているお2人に今日はゲストで来ていただきました。それではご登場いただきましょう。山下敦弘監督、松江哲明監督です。どうぞお願いいたします。今日はよろしくお願いいたします。

ではまず映画をご覧になっての感想をお聞かせいただけますでしょうか。

山下:初めて(クリスティアン・)ムンジウ監督の作品を観まして、実は今「山田孝之のカンヌ映画祭」というドキュメンタリー・ドラマをやってるんですけど、主題歌の中にムンジウ監督の(監督第2作)『4ヶ月、3週と2日』という歌詞が出ていて、タイトルは知っていたんですけど実は過去の作品は観たことがなくて、今回初めて観させてもらったんですけど、いろいろ勉強になりました。

MC:松江監督はいかがですか。

松江:ちょうど僕は夏に山田君と山下君が撮影したのを見て、いろいろカンヌについて勉強というかリサーチしているんですけど、何て言うんですかね、ある種の“カンヌの法則”というか、“カンヌに好かれる映画”というか、そういうのが大体分かってきたところで、ちょうど観たときに「これかっ!」っていうふうにズバッとはまったものがありましたね。すごく観客を信じるというか、これは(「山田孝之のカンヌ映画祭」の)第2話を見た方は分かると思うんですけど、天願大介監督が「カンヌの人たちはハリウッドを憎悪している」と。ハリウッドがつくる映画に対してこういうのだけではないぞっていう、一つの映画のアプローチというか、古典的なものだったり新しい表現というのをカンヌはすごくだしてくるので。で、まさに観客を信じるというのと、映画的表現というのを守り続けているっていう、そういうのは観て思いました。

MC:皆さんご覧になったあとなので共感していただける部分もあるんじゃないでしょうか。この映画はこの前のカンヌで監督賞を取っているんですけれども、お2人の監督から見て撮影とか演出の仕方で
何か気づかれたことなどありましたでしょうか。

山下:やっぱり演出はすごく丁寧というか、プレスシート(資料)を見させてもらって、撮影前にリハーサルを同じ場所でやる、確かダルデンヌ兄弟もそういうことをやっていると思うんですけど、すごく自然なルーマニアの人たちの生活という感じなんですけど、実は緻密に演出がされているというのが、やっぱり演出は丁寧だなと思いました。キャスティングもやっぱり素晴らしいなと思いました。

MC:松江監督はいかがでしょうか。

松江:フレームの外を常に意識させるっていうのは思いましたね。例えば最初窓ガラスに石が投げ込まれるっていうのとか。これはあんまり日本映画のディスりみたいに思わないでほしいんですけど、日本映画ってフレームの中で全部説明するんですよね。今、何月何日とか、ナレーションでこういう状況ですとか、お芝居とかも全部分かりやすくっていうふうに、全部フレームの中に映っているもので伝えようとするんですけど、(『エリザのために』は)フレームの外から何かがあるっていう。映っていないところから何か事件が起きるっていう。誰が石を投げたのかとか車を傷つけたのは誰かとかを謎のままにしておく、でも何か不穏なことが起きてるんだっていう緊張感をフレームの外から入れてくるっていう。そういう表現っていうのか、世界が広いところにあるんだっていうのは思いましたね。あとはワンショットでできるだけ撮るっていうか、現実に起きてるんだよっていうことを分からせるために、カットを割るんじゃなくて常にお客さんを飽きさせないようにいろんな風景だとか動線はすごく作っているだけど、できるだけワンショットで現実にこれが起きましたっていうのを、撮るところとかもフレームの外っていう意味ではそういうのもあるかもしれませんね。

MC:「山田孝之のカンヌ映画祭」を見てる方も見ていない方もいらっしゃると思いますが、せっかくなんで番組について。ちょうど昨日(2017年2月3日)パリ、カンヌへ行くというシーンが流れたんですね。そこで山下監督、ビジネスクラスに乗ってらっしゃったじゃないですか。

山下:ええ、山田孝之のおかげで。

MC:山田孝之さんはプロデューサーとしてどんな役割を、どんな立ち位置でやられているんでしょうか。

山下:そうですね、僕よりも若くて年下なんですけど、やっぱりリーダーというか座長というか、普通、映画は監督の名前を取って“山下組”とか呼びますけど、あれに関しては“山田組”ですね、なんか感覚としては。

松江:よくなんかすごい突飛なことをしているようなんですけど、実は意外と山田君がやっていることってカンヌの、何て言うんですかね、今までやってこられた監督たちと大きく離れていないなと思っていて。例えば脚本なくてなんでこんなことやってるんだっていうことも思われるかもしれないんですけど、実はウォン・カーウァイも脚本用意してないとか、例えばチームで固めずに素人を使うとか、そういうやり方の感覚は、山田孝之は嗅覚がいいなというか。勘はすごくいいですよね。たまたまカンヌの事務局行ったらスタッフと会えるとか、とんでもない奇跡が起こるので、それは僕も素材見ながら。やっぱり呼ぶ人っているんですよね。良い偶然を呼ぶというか、カメラが回っているときに奇跡を起こせない人もいるんですよ。でも起こせる人なんですよね、山田孝之って。そこはプロデューサーとしてもすごいし。監督もやっぱり特にドキュメンタリー作ってるとそういうのないとダメですから。山田君はすごい呼びますね。

MC:番組の中でもいろんな方に会って、カンヌで賞を取るためにとリサーチをされていると思いますが、ムンジウ監督はカンヌで3度も賞を取っているわけですが、カンヌで賞を取るっていうのは何が必要だとお感じになられますか。

山下:あ、そこ聞きます(笑)? まだ何とも結論めいたことは言えないんですけど、ひと言で言うと魂を込めた、まぁその魂というのは漠然としすぎてますけど、なんというか思いと言うか、これしかできないっていう監督のある種の思いっていうものがまずないと、響かないんだなとは思いますね。それは最低限なんじゃないかなっていうのと、山田君と、カンヌとパリに行って来て、いろんな人の話を聞いてやはりコネクションも大事だなと。それはいやらしいコネクションということじゃなくて自分から歩み寄っていかないと。日本人ってそこが下手くそだと思うんですね。河瀨(直美)さんだったり、是枝(裕和)監督とか黒沢(清)さんもそうですけど、外に対しての開き方がやっぱり素晴らしいというか独特だなっていうところがあると思いますね。

松江:そうですね魂っていう言い方しちゃうとまさにそうなんですけど、つまり魂以外の部分が今、映画に優先されていないか、というか、特にエンターテインメトをすごく強調する映画で観た後によくも悪くも何も残らないっていうものとか、すごく興行成績だけが取り沙汰されていて。映画を好きになる人ってヒット作ばかり観て好きになるわけではなくて、自分にとって“永遠の一本”ってあるじゃないですか。そういうものに対して帰ろうとすると、一つの言葉として魂っていうものになるのかなって。で、例えば『エリザのために』も作品の中に怒りがあるじゃないですか。不正と距離を取りながらも娘のためにってなったときに、どんどん加担していくものとか、綺麗ごとじゃないものになっていくんですよね。僕はやっぱり映画を観て面白いなと思ったのは、完璧ないい人って一人もいないんですよね。皆何かしら、例えば家庭がうまくいっていないとか、娘にも答案用紙にこうふうに書けとか、つい不正を促してしまうとか、そういう綺麗ごとだけじゃないものの果てに最後に何が残るのかっていう、投げ方というか託し方が。僕が最後、これ上映後のトークなので言いますけど、音楽が現場音のまま、現場で取った音のまんま終わるじゃないですか。エンドロールにつくった曲を流すのではなく、現実と地続きのまま、あの映った子供たちに何か託してるのかなっていう。ああいう終わり方ってハリウッド映画とか日本映画でも現実音のまま終わるってなかなか勇気がいる演出なんですよね。あれは誰がどう見てもちゃんとした曲を流すべきで、例えば劇場で観る人に向けてすごく綺麗な音で気持ちよく帰ってもらうってとか、そういうことではなくて、あくまで生きている現実そのままを持ち帰ってほしいというか。最近ではハリウッド映画でも(クリント・)イーストウッド監督が『アメリカン・スナイパー』っていう映画で音を流さないでエンドロール流したっていう演出がありましたけど、(『エリザのために』を)観ていて思い出したんですよね。こういうすごくシンプルな、でも作り手の勇気だと思うんですよ。イーストウッド監督が音楽流さなかったのも、『エリザのために』の現場音のまま終わるっていうのも。絶対ああいうの意見出ますから、プロデューサーだったりいろんな人から。でもそうではないんだっていう。それがなんか今言った魂というか一つの言い方ですけどね。技術ではなくてそういうふうに見せるんだっていう覚悟というか。そういうところが僕は何かカンヌで注目されている映画っていうのはそこが違うなって。結果的にそういう映画をカンヌは推して監督賞というのが今回の結果なのかなと思いました。

MC:ちなみにですね、このイベントが決まりましてムンジウ監督から直接、スカイプなんですけれどもインタビューでお話を伺うことができまして、「何でカンヌで3度も取れたと思いますか?」と聞いたところ「審査員も毎回違うので、審査員の趣向によるとしか言えないですよね。ただ、対策ではないけれども非常に意味のあるテーマを自分はずっと扱ってきていて、自分と審査員の相性が良かったのかもしれませんね」とおっしゃっていました。また、今のお話にもつながるかもしれませんが、ムンジウ監督の映画の特徴は「編集や音楽での操作をしないということでワンショットで一つのシーンを撮影します。このようにすべてを同じ流れで撮るというのは非常に正直な映画であって、トリックが効かないということです。それで私のテーマが何かしら審査員の方々に響くものがあったのかもしれませんね。これはあくまで私の分析で審査員の皆さまがどう思っているか分かりませんが」というようなことで、ムンジウ監督からもお言葉をいただきました。

お時間もないのでそろそろ最後の質問になりますが、カンヌ映画祭は今年で70回を迎えますが、つい最近スペインの巨匠のペドロ・アルモドバル監督が審査員とかニュースで発表されましたが、今後お2人から自らエントリーされるような予定はございますか?

山下:そのために今、やっているので(笑)。ご予定というよりかまぁ目標として掲げてやっているので、はい。

松江:よく「山田孝之のカンヌ映画祭」を、全部ネタだと思っている人いるんですよね。ようするに全部、冗談なんじゃないかって。でも、僕が言いたいのは、“えっ皆さん今年の5月がカンヌですよ”と、“応募締め切りは3月14日で誰でも応募できるんですよ”っていうことを、皆さん忘れていませんかっていう。まぁあんまり後半の展開あれなんで、ただ僕らまだ番組終わっていないので、もう終わったんでしょ?って言われるんですけど、いやいやいやカンヌ映画祭これからあるじゃんっていう。

山下:今、アルモドバルが審査員って非常にいい情報を聞いたなって。

MC:魂込めるんですよね?

山下:込めますよ!

松江:冗談でやってるんじゃないぞってことは、はい。

MC:今年の5月のカンヌ映画祭を楽しみにしていただけたらと思います。ちなみにですね、石を投げた犯人を特定しないような作り方をしていますが、ムンジウ監督が「石を投げた犯人はこの映画を2回観れば分かるよ」とおっしゃっていましたので、良かったらまた観て犯人はこの人だなと予想してみていただけたらと思います。それでは短いお時間でしたけれども、山下監督、松江監督ありがとうござました。

2017年2月4日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町


『エリザのために』
2017年1月28日公開
監督:クリスティアン・ムンジウ 出演:アドリアン・ティティエニ マリア・ドラグシ ヴラド・イヴァノフ 


こちらはトーク内でも触れられた『4ヶ月、3週と2日』という歌詞が出てくる「山田孝之のカンヌ映画祭」の主題歌。


「山田孝之のカンヌ映画祭」
1月6日(金)からテレビ東京系で放送(毎週金曜深夜0時52分)
監督:山下敦弘 松江哲明 出演:山田孝之 芦田愛奈 ムロツヨシ