【全起こし】『沈黙』ジャパンプレミア、窪塚洋介「監督はどこの馬の骨とも分からない俺に敬意を払ってくれた」

MC:ありがとうございます。それでは日本のキャストの方に一言ちょうだいしたいと思います。まずは、キチジロー役の窪塚洋介さんです。

窪塚:こんばんは、窪塚です。(監督の方に向き直り、監督の顔を凝視しながら)マーティン・スコセッシ監督……。どんだけ日本に来てくれるんですか(マーティン・スコセッシ監督が爆笑し、会場も笑いに包まれる)。この30年、製作のためにどれだけこの人が日本に来たと思いますか?どれだけ日本に、遠藤周作さんの思いに、ひいては皆さんにどれだけの敬意を払ってくれているか。こんな極東のどこの馬の骨とも分からないようなこの俺に、毎日どれだけ敬意を払っていてくれていたか。溢れるようなその経緯を僕らは感じて毎日夢の中で仕事をしているみたいでした。どれだけ山の上が厳しい寒さだろうが、どれだけ正座を長いことさせられて古傷が痛もうが、膝が痛かろうが、どれだけ長いこと待ち時間があろうが、そんなもの幸せの一部だろうっていうふうに思うぐらい、本当に幸せな時間を過ごさせてもらいました。俺たちは和の国の民です。ピースとか、コンパッションとか、リレーションシップとか、和の心を持っています。俺たちは和の国の民です。この映画がマーティン・スコセッシ監督の思いが、遠藤周作さんの思いが、皆さんのところに届いて、より良い明日が来ることを信じて疑いません。今日来る時に、新雪を前原あたりで見て、自分が今そういう気持ちでいるんだなということを確認しながらここにたどり着きました。今日、この場所が僕の役者人生の最良の日です。そこに立ち会っていただいて、本当に幸せに感じてます。これから映画を見ていただくということで、神は沈黙しているので、自分で自分の中に入っていってその答えに触れてもらえたらなと思います。本当に幸せです。ありがとうございました。

MC:ありがとうございます。続きまして通詞役の浅野忠信さんです。

浅野:えー、窪塚さんの素晴らしいスピーチの後で何を言ったらいいかわからないんですけども、僕も監督といられて本当に幸せでした。とても難しい役でしたが、監督は常に僕らのことを見守ってくれて、待ってくれて僕らの繊細な動きや表現を見逃さずに見てくれて、その中で新たなアドバイスをくれていたので、だからこの役を乗り越えられたんだと思うんで、監督の優しさというか、一緒にものを作ってくれるという姿勢にはたくさんたくさん学ぶことがありました。ですから映画を見た時に、僕だけじゃなくて他の俳優さんたちの演技も楽しめましたし、想像以上のものが描かれていたんで、皆さんも今日は楽しんでもらえると思います。それと同時に、とっても素晴らしいことを言っていた窪塚くんが、こんな役なのかと?さっき言っていたことはどういうことなんだと思うかもしれません(笑)。ですから、面白いと思います。

MC:ありがとうございます。それでは次に、井上筑後守役を演じましたイッセー尾形さんです。

イッセー:井上筑後守役を演じましたイッセー尾形です。悪役だということで、世間では通っているんですけども、この話をいただいたオーディションをして、テープを撮って、幸いに撮影まで充分な時間があったんですね。だから僕は毎日、家で井上を育てていたんですね。育てると、育ちます。まるで我が子のように井上が育ったんですね。我が子を悪人のように育てる親はどこにいますか?根は優しい子に育てました(笑)。(会場笑い)それで、私はその優しい子のように演じたんですね。親子ともども。だから私たちが戦う相手はキリシタンだけではなくて、世間もそうだったんですね。そんな様子を監督さんは、とっても優しく、温かく、見守ってくれまして、本当に感謝しております。Thank you very much.

スコセッシ:ありがとう。ありがとう。

イッセー:こうやって時間がある時は井上について説明をするんですけど、時間がないときには「悪役だよ」って答えてます(笑)。

MC:どうもありがとうございました。続きまして、隠れキリシタンのモキチ役を演じました塚本晋也さんです。

塚本:僕も窪塚さんの挨拶を聞いていたら全部吹き飛びました、考えていたことが(笑)。モキチは敬虔なクリスチャンなんですけども、僕自身は特別な宗教を持ち合わせていないんで、自分の中でスコセッシ教というのを作らせていただきました(笑)。スコセッシ監督のためなら、なんでもできますし、はりつけの時も、「もしかして死んじゃっても仕方ないかな」というようなぐらい、すべてを捧げて監督の言うことは全部聞いて、なるべく頑張るという姿勢でやらせていただきました。もう一つは『野火』という映画も作ったんですけども、未来の子どもたちが心配な気持ちが強くなってきてますので、さっきのスコセッシ教と、未来の子供のことをあわせ技にして演じることで、モキチを純粋に演じることができました。見ていただくとそのことがわかっていただけるのではないかと思います。監督は俳優に自由に演技をさせてくださるんですね。何か提案したことで「NO」ということはなくてですね、全部素晴らしいと言ってくれて、現場で演じても「エクセレント!」って言ってくれるんですね。俳優ってだいたい常に不安になってるんですね。「今のいいのかなあ…」ってクヨクヨするんですけど、監督が来て「エクセレント!」って言うとですね、「じゃあ、いいんだ」と思って次のシーンに気持ちよく移れると。今度僕が監督する時は真似させていただきます。「エクセレント!」って(笑)。(会場笑い)この映画は本当に歴史に残る映画で、ぱっとみてひとつの答えがでるような映画ではなく、いくつもの答えがあると思います。いつまでも歴史に残って、長く長く語られる、語り継がれる映画だと思いますので、そういう素晴らしい歴史のひとつに関わることができて本当に光栄でございます。監督、どうもありがとうございます。