ライムスター宇多丸(左)と映画ライター・デザイナーの高橋ヨシキ(右)
2015年にシリーズ27年ぶりの新作として公開され、映画を観る喜びを再確認させてくれた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。そのモノクロ版 <ブラック&クローム>エディションのブルーレイ発売を記念した試写会が開催され、ライムスター宇多丸と高橋ヨシキが登壇した。以下はその全文。
【上映前】
宇多丸:「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャフル Presents マッドマックス 怒りのデス・ロード<ブラック&クローム>エディション発売記念試写会 ~お前なんか真っ先に死ぬ~」開催~!! はい、お待たせしました~、はい、こんにちは~。寒空の中、外に長い時間並んでいただきまして、申し訳ございませんでした。お集まりいただきありがとうございます。一応TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャフル」、ラジオ番組でございます。パーソナリティの宇多丸です。よろしくお願いします。TBSラジオの番組で募集させていただきましたけど、あまり分かっていない方も紛れ込んでいるいらっしゃるかもしれませんのでね、説明を加えていこうかと思います。
2015年に公開された大傑作映画、というか今や映画史に残る名作というか、本当に新しいトンデモナイ映画ができてしまったということで、評価がたぶん定着しているんじゃないかと思います『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。その幻のモノクロ・バージョン、ブラック&クローム版を収録したブルーレイソフト<ブラック&クローム>エディションが、2月8日に発売されるということで、今夜はそのスペシャルコラボ企画として「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャフル Presents マッドマックス 怒りのデス・ロード<ブラック&クローム>エディション発売記念試写会 ~お前なんか真っ先に死ぬ~」ということになりました~。この『~怒りのデス・ロード』は、僕の番組でもジョージ・ミラー監督にインタビューしたり、私が「ムービーウォッチメン」というコーナーで公開直後に時評したりですね、あとキャッチコピー選手権みたいなのをやったんですね、ブルーレイ&DVD発売記念で。“お前なんか真っ先に死ぬ”はそのときの優勝キャッチコピーということで、別に皆さんに言ってるわけではありませんのでね、申し訳ございませんでした。ここで共にこの試写会を盛り上げてくれるスペシャルゲストをお呼びしましょう。映画ライター・デザイナー、高橋ヨシキさんです! 靴がスゴイですね、髪もスゴイし。
高橋:こういうところで主張していかないとダメかなって。
宇多丸:主張ですか(笑)。主張をどんどんお願いします。ということで、まず上映の前にですね、まさかとは思いますけど『~怒りのデス・ロード』を今日ここで初めて観るっていう人います?
高橋:そんなことありますか(笑)?
(前列の女性が挙手)
宇多丸:えーっ! マジッすか!?
高橋:いらっしゃいましたね。
宇多丸:いいですねー。興味深いでしょ正直。『~怒りのデス・ロード』は観た人は皆、衝撃を受けてリピーターもめちゃめちゃいたりするじゃないですか。僕も観た直後あまりの衝撃で感想が言えなかったですよね。すぐ、いいの、悪いの言えなかったです。良かったとか悪かったとか。
高橋:あ、本当ですか。「超良かった」とかすぐ言っちゃいましたけどね。
宇多丸:超良かったんだけど、なんかその、なんだこれスゴイもん観ちゃったなっていう感じになっちゃって。(先ほどの女性に向って)なので初体験、白黒バージョンが先ということで、なかなかいない人なんで、あとで感想聞いていいですか?
(はい)
宇多丸:じゃ、よろしくお願いします。残りの方は皆さんご覧になってるということで。で、ヨシキさん、ジョージ・ミラー監督に直接インタビューなどもされているので、一番ある意味、作品解説というところでは適任かと思います。
高橋:いやーそんなことないですよ。
宇多丸:「マッドマックス」シリーズの4作目という言い方になりますけど。
高橋:CGのメル・ギブソンとか出てきませんけどね。
宇多丸:そういう“ローグ・ワン”方式は。ぐーっと上がったらしかも微妙に誰?っていう人が(笑)。そういうインチキはしておりません。で、『~怒りのデス・ロード』はですね、さっきから映画史に残るって言っちゃってますけど、どのあたりが特別な作品かっていうのとちょっと。
高橋:そんな難しいこといきなり聞きます?
宇多丸:改めてちょっと整理しておきましょうよ。
高橋:どのあたりが特別というか、誰も観たことがないものだったってことですよね。
宇多丸:もちろん4作目なわけだから、「マッドマックス」的なポストアポカリプスというか、世界が滅びたあとの世界みたいな。世界観そのものは前からあったわけだし、カーアクションもあるわけだし、1個1個を取り出してみると前からなかった要素っていうのはないけれども、っていうあたり。
高橋:そうですね。たぶん今回つくるにあたってジョージ・ミラーが一番悩んだところだと思いますけど、何をやっても「マッドマックス」の1か2か3か、どれかになるっていうことになってしまったらどうしようっていうのが絶対あるので、そこを研ぎ澄ませて違うことにしようというのを頑張った映画ですね。あとはジョージ・ミラーという人は、サイレント映画がすごい大好きで、できれば映画はサイレントでモノクロがいいって思っている人なんですけど、今回もいかに画で分からせるかっていうことをやるために脚本の代わりに先に絵を描かせたりしてたじゃないですか。
宇多丸:そうですよね。字で書いた脚本の前にストーリーボードが。
高橋:そうです。だから、予告観たときに絶対間違いないって。
宇多丸:ヨシキさんその年の、2014年でしたっけ? 「映画秘宝」のベスト10に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の予告編が1位っていう。
高橋:はい。
宇多丸:年間ベストが予告編って、本編公開されたらどうなるんだ!って思いますよね。
高橋:いやでも実際そうなりましたけどね。
宇多丸:いや良かったですよね、ハズさなくて。
高橋:これで観たら、CGのメル・ギブソンが、
宇多丸:パンアップしたらねー。
高橋:大変ですよ。ちょっと死んじゃうとこだったかもしれませんね(笑)。
宇多丸:賭けに勝ったということで。
高橋:賭けじゃないですね、確信してましたよね。
宇多丸:やっぱ予告映像を観たときにこれは確実にちょと桁違いのきちゃったなって。
高橋:間違いないのがきたなって思いましたね。
宇多丸:実際観たらぶっ飛びの作品でしたよね。今、おっしゃってましたけど、そういう意味ではちょっとサイレント的なというか昔の、映画の“根源”っていうんですかね。そういうところに近づけるための白黒版っていう。
高橋:それがいいんだと思いますね。ジョージ・ミラーも映像で編集のときに白黒のちょっと見せてもらったらすごい良かったんでとか言ってますが、それちょろと見せてもらったからとかじゃなくて、「ちょっと白黒にしろよお前」って言ったんだと思います。
宇多丸:おかしいですもんね普通に。ちょっと白黒の映像を見せてもらったってなんで白黒なんだっていう(笑)。
高橋:そうそう、だからそれは自分で言ったんだと思います。本人も言ってましたね最初の頃から
宇多丸:僕もこの映画説明するときに、映画の根源みたいところを突き詰めたら映画の一番新しいかたちになっちゃったみたいな。
高橋:うまいこといいますね。
宇多丸:ラッパーなんでね。ま、そんな感じだと思います。まさにそれが分かりやすく突出した感じで出るのがひょっとしたら白黒版かもしれません。我々も初見なんですよね、実は。
高橋:初見です。
宇多丸:この<ブラック&クローム>エディションがどういうふうに印象が変わるのか。
高橋:そうですね。あと今、白黒にするっていってもカラーをそのまま白黒にするんじゃなくて、何色を黒にしたときにどのくらい濃くするかっていうのをものすごく細かく調節できるんで、ものすごく気を使ってやってると思うんですね。単に白黒にしちゃうと例えば白黒映画で赤って灰色になっちゃうんですね。だから白黒映画だと血のりは黒いシロップとか使ったりするんですけど、そういうところも含めて白黒で観たときにちゃんとその色で見えるような補正をしてると思うんで。
宇多丸:そういうのも細かくできるんですね。
高橋:めっちゃ楽しみですね、それが。
宇多丸:今まで映画で白黒版みたいなので『ミスト』とか。フランク・ダラボンの。あの白黒版で皆さんご覧になった方いますか? あれすごいいいですよ白黒版。
高橋:あれめっちゃいいですね。
宇多丸:俺、『ミスト』を思い出すときは白黒版で思い出すぐらいです、イメージとして。
高橋:これも印象変えちゃうかもしれませんね。
宇多丸:そう、決定的に変える1本になるかもしれないってことで。今夜は皆さんと観たいと思います。(スタッフの紙を見て)「映画を観ます」あ、そうですか。映画を観ないっていう手もありますけど。
高橋:何を言ってるんだ(笑)。大丈夫ですか。
宇多丸:ここで映画を観るってちょっと予定調和、、
高橋:何を言ってるのかな(笑)。
宇多丸:困ってますね。じゃあ観ましょうか。我々も席に着いて皆さんと観て、終わった後にちょっと休みを挟んでからアフタートークということで、またお話をさせていただければと思います。ってことで席に着きましょうか。
高橋:はい。
宇多丸:ありがとうございます。よろしくお願いします。ではスタート!(本編上映)
(ここではジョージ・ミラー監督によるちょっとした解説をどうぞ)
【上映後】ネタバレ注意
※ここからは本編を、できれば<ブラック&クローム>エディションを観てからをオススメします。
宇多丸:いやー、いい映画ですね。
高橋:改めてね。
宇多丸:観るの久しぶりだっていうのものあるんですけど、めちゃくちゃ新鮮な気持ちで、普通に驚いたりしてましたから、えっみたいな。
高橋:結構ビックリしたりしますよね。
宇多丸:先ほど伺ったそもそもこの『~怒りのデス・ロード』を初めてご覧になるという方、前の女性と真ん中のあたりにも男性が一人いらっしゃったんですけど、いかがでした?
(女性:もう1回観たいです)
宇多丸:リピーターがめちゃめちゃ多い作品なんですよね。楽しかったですか?
(女性:すっごい面白かったです!)
宇多丸:ありがとうございます! 僕が言うことじゃないですけど、良かったですね。まずこの<ブラック&クローム>エディション、高橋ヨシキさんの率直な感想というか印象というか。
高橋:まぁ超良かったですよね、はっきり言って。
宇多丸:基が超イイから。基が完璧だからこそっていう。
高橋:やっぱり色が無くなることでよりソリッドな感じになるし、元々グラフィックノベル的な感じの、ストーリーボード書きながら脚本同時進行でつくった映画ですけど、グラフィックノベル感がすごい出てて、めっちゃかっこいいなっと思って観てましたけどね。
宇多丸:なんかあと神話っぽい感じっていうかね。
高橋:そう、なんか抽象性が高まってるんで、より映画の持ってる力が白黒にすることでちょっと強くなってる感じしましたね。
宇多丸:あとやっぱり例えば、前半にすごく多い砂煙とか、煙がバーッて出るところとかそういうのが多いじゃないですか。白いものがワーッとなるみたいな。ちょっとバカっぽいですけど(笑)、煙とか砂煙とかそういうときに、白黒バージョンの良さが出るなとか。あとナイトシーンもまた全然味わいが違ったり。
高橋:(カラー版の)ナイトシーンは真っ青でしたからね。あれもあれで良かったですけど、今回もすごくいい感じになってましたね。すごくいい感じになってたしか言ってないですけど(笑)。
宇多丸:序盤は影とか黒が“黒”って感じでそれこそものすごい調整したんだと思いますけど、話が進むにつれて段々トーンが変わってるなっていうのが、むしろこのバージョンでより分かるようになったねって思いますね。
高橋:白黒映画って基本的に好きなんですけど、汚らしいところが映ってると、本当はより汚いんじゃないっていう印象が強まってシタデル(イモータン・ジョーが占領している砦)で機械がいっぱいあるところとか、よりえげつない感じになっていて、っていうかちょっとかっこいいなって思って。
宇多丸:あと汚らしい人がいっぱい出てくるじゃないですか。汚らしいって言っちゃいけませんね。
高橋:住民のこと言ってるんですか、もしかして。何てこと言うんだ(笑)! 普通の人たちでしょ!
宇多丸:そうなんだけど、体とか洗えないから、何て言うのかな(笑)、アンダーグラウンド感とか。あとウォーボーイズの白塗りの感じがまた。
高橋:はい、引き立ちますよね。
宇多丸:元々持っていたアート的な側面といいますか。
高橋:本当にだからこの、カラーのときもそう思いましたけど、白黒で観ると本当すごいですよね。だってあの画がね、何もないところに“トラックと木”とか、もう記号っていう意味でねあまりにもシンプリファイされているので、ちょっともうすごいもの観てるなって気がしますよね。
宇多丸:どの場面取ってもね。本当にそうですよね。“車と木”。
高橋:車とか、“車&石”みたいな。
宇多丸:“車と屋根”。
高橋:車と石と夜とバカがいるっていう、それ以外ないですよね。
宇多丸:もう観るのは何回目ぐらいですか?
高橋:ちょっとよくわかんないです。
宇多丸:ちょっとよくわかんない(笑)?
高橋:そんなに100回とか観てないですよ。
宇多丸:ヒドイ人はそのくらい観てますもんね。
高橋:ヒドイ人って言わない。
宇多丸:よく観る人はそのくらい観てるって人もいますけど、何か新たな発見とかありましたか?
高橋:あー、新たな発見はなかなか難しいですね、今となっては。最初のうち繰り返し観てるときに割と掘るじゃないですか。あそこどうかなーって細かく観ていってるんで新たな発見っていう意味では、お芝居が皆超イイんで、ってなんかバカみたいですね(笑)。
宇多丸:いやいやいやそんなことないですよ、大事なことですよ。アカデミー賞ですごい獲ったのはいいけど結局技術部門ばっかりだったじゃないですか。あれ本当はおかしいと思っていて。ってかシャーリーズ・セロンがノミネートもされていないのは絶対おかしいだろっていう。
高橋:それを言いたかったんですけどね。シャーリーズ・セロンはね、すごくいいなーと思って。
宇多丸:いいよね! <ブラック&クローム>エディションだと黒塗りで目がギラギラしてる感じとか際立ってるし。めちゃめちゃいいですよね。
高橋:めちゃくちゃイイ。
宇多丸:フュリオサが主人公ですからね。
高橋:まぁ実質というか主人公ですよね。
宇多丸:皆いいですよね。
高橋:はい。最後の方とか結構陶然としちゃって、なんか今日幸せだなって思って。ニコニコしてましたね。
宇多丸:分かります。あー幸せだなーって。“映画って本当にいいものですね”って。
高橋:あ、それか。
宇多丸:思っちゃいますよね。で、こう終わってグ―ッと(エンドロールが終わって)クレジットがダンッと出たときに、はぁ~なんて、ありがと~う!ってアリガト~ウ!!っていう気持ちがします。
高橋:あそこでもうまいタイミングでやらないと字幕の人に拍手してるみたいになっちゃいそうで危ないですよね。アンゼたかしさんにすごい拍手してるみたいな。いやすごいしてもいいんだけど。
宇多丸:そんなこと気にしてる人いないですよ。
高橋:ちょっと危険だなって思って。でもアンゼたかしさんはいい仕事なさってるんですよ、もちろん。そういう意味じゃなくて、どっちに拍手してるのか分かりにくくなるということですね。
宇多丸:訳といえば、日本語訳はもちろん分かりやすくやられてますけど、セリフ回しとかも改めて、何度も観てると普通の英語とは違う言い回しが面白いですよね。
高橋:そうですね。変な言い方ばっかりしてますからね。あと変な単語ばっかりだし。
宇多丸:言葉を知らない子とか。
高橋:うん、だからやっぱり未来映画ですよね本当にね。未来になって言葉も変わってるっていう設定なんで、そういう意味でそういうところはSFっぽいって思うし、
宇多丸:要は言葉上で説明とかまったくされないけど、ちゃんとそれぞれの、それこそ部族というかチームごとの背景とか暮らしとかも見えてくるし、どういうシステムの社会なのかというのも冒頭でね。
高橋:大体分かる。簡単ですからね。あんまり難しいことはやってないですけど。あとね、何回観ても昼間に暑いって一服してるところが本当に好きで。
宇多丸:あれでしょ、イモータン・ジョーがよく分かんない歌、歌ってるところ(笑)。
高橋:そうそう、あそこ好きなんですよね。あんときなんかあっちのヤマアラシ族みたいな方も、組み上がったからから一服してるところでフーッみたいしてるじゃないですか。あの感じ好きなんですよね。だって砂漠って昼間めちゃくちゃ暑いですから基本、外に出たくないからあんな感じになっちゃうっていう。超イイ感じですよね。
宇多丸:なんですかね、あれね。あそこに彼(イモータン・ジョー)がまだ人間だった頃っていうか。
高橋:人間だった頃(笑)、はい。
宇多丸:普通の人として暮らしてた頃の、彼的にも自分も余命長くないし、スプレンディド子供がダメだったことで結構。
高橋:大ショックですよ。
宇多丸:そう、ある意味、“俺の一生何だったんだダベ”っていう状態になってると思うから、ちょっと心折れ気味で昔の曲を思い出して♪ンン~って。そう思うとちょっと可哀想。後ろで乳首いじってる奴はいるわさ。
高橋:可哀想じゃないですよね。可哀想なのは、僕はリクタス(イモータン・ジョーの息子のひとり)だと思っていますから。リクタス可哀想ですよねー。最期可哀想でしょ。
宇多丸:お父さんいなくなって、何ですかあれは? 次は俺だみたいな。
高橋:違う、あれは次は俺の時代だじゃないんですよ。リクタスってちょっと頭も弱くて気の毒な子じゃないですか。ミルク美味しいとか、ちょっとこれ(望遠鏡)覗かせてくれとか、スゴイ可愛いでしょ全体的に。俺はキュート一番だと思ってるんですけど。
宇多丸:可愛いらしいものが好きっぽいですもんね。
高橋:そうそう人形とか、子供なんですよまだ。前も言ったかもしれないですけど、最期のところでリクタスは、お父さんはしんじゃうわ、なんか女は連れていかれちゃうわ、自分が乗ってる車ももう壊れそうだわで、もうなんも無いんですよ言うことが。元々、頭が悪いのにさらになんか“お父ちゃん!”とか何も言えないじゃないですか。何もないんですよ。そしたらも自分の名前しかないなっていう。消去法で自分の名前しか。
宇多丸:この気持ちを表現する言葉が。
高橋:言葉を知らないから名前かなーみたいな(笑)。あれが好きなんですよね。
宇多丸:スプレンディドが死んで、お父さんが悲しんでるから俺も悲しいよとか、銃ぶっ放したりとかそういうことしかできないもんね。
高橋:あのとき本人は本当に悲しいんですよ。
宇多丸:俺の弟がーとか。
高橋:そう、言葉は全部受け売りなんですよ。オウム返しなんですよね。思いつけない、それはしょうがない。でもリクタスっていう名前は言える。「リクタース!」偉いじゃないですか。そこが好きですよね。
宇多丸:それぞれのキャラクターの掘りがいがあるからリピーターを生んだりとか。
高橋:それはめっちゃありますよね。
宇多丸:それでいて隙間読ませ映画ではないじゃないですか。深読みさせるとか。
高橋:別にそこに秘密はあんまりないですからね。
宇多丸:難しいことはまったく言ってないし。画面上観てれば全部ある情報だったりとか。そこがすごいなとかね。あとやっぱアクション設計が、これどうやって撮ったんだろうと思うような。走ってる車の上で複数のアクションが起こっていて、結構何度観てもきっちり整合性取れていて位置関係とか。混乱させないで見せていて。
高橋:あれ計画立てるのが大変だと思いますよ。全部絵コンテがあるとしても、このときこの車が手前だからみたいなことを全部考えてやんなきゃいけないわけだから。
宇多丸:ロジカルですもんね。この車がここにいてコイツの車がここにいてこうだから、この次こうなるみたいな。
高橋:たぶんサッカーの陣形みたいなのを書いてやってるんだと思いますよね、たぶん。
宇多丸:たぶん同じところを何回も往復してそれを撮ったりとか。
高橋:まぁそういうことでしょうね。
宇多丸:単純にカーアクションとしてもレベルの高さが、ちょっと見たことない。
高橋:ビックリしますよね。
宇多丸:これも私の評で言ったことですけど、アクショの一つひとつがキャラクター描写に直でつながってるっていうか、誰がどこでどう動くかがキャラクター描写ということになっていて、セリフいらないっていうか。
高橋:そうですね。
宇多丸:しかもセリフもいいんですよね。少ないセリフもいいじゃないですか。
高橋:はい。
宇多丸:何か言ってくださいよ。
高橋:いやなんかボンヤリしてるんですよ。よかったなーって。
宇多丸:分かりますよ。僕も最初観たときボンヤリしてて、「どうだった?」「うん」みたいな。
高橋:なんかこういうことを考えた人がいっぱいいるっていうことがすごい嬉しい感じですよね。“トゲトゲが超付いた車に回転のこ付けて、横からギーンっていくんだよ”って、それを映像にする人がいるっていうこの世界があるっていうのが嬉しいですよね。
宇多丸:映像どころかあれ作ってますからね。
高橋:作ってますからね。「次はショベルカーでしょ」なんつってやってるわけですよ。それ最高じゃないですか。車でさらわれた奴をどうやって取りに行くかもね、「高い棒にさぁ」って。あれスゴイですよね。
宇多丸:いつもこの話してますけど、ジョージ・ミラーはあれ好きなんでしょうね。
高橋:あれシルク・ドゥ・ソレイユの人がやってるんでしょ?
宇多丸:シルク・ドゥ・ソレイユじゃなくてオーストラリの大道芸の人からヒントを得てやったらしくて、(ジョージ・ミラー監督の)『ベイブ/都会へ行く』の1場面にあれが出てくるんですよね。あと最初の『マッドマックス』で棒高跳びみたいなのやってますよね。
高橋:やってますね。
宇多丸:この動き好きなんですね。メイキングによるとどうしてもこれがやりたいけど、どうしても安全にやる方法が思いつかないから、「う~CGかここは、、」とか。そこまでしてこれなの?そこをCGなのかーみたいになったところで、なんか大道芸人から安全にやる原理を見つけてみたいなことをメイキングでおっしゃってたんで。
高橋:そんときもだから皆に話して盛り上がったあとですかね、絵も描いて、ここ超アガるはずじゃんってってクライマックスに入れちゃったから、ちょっとそれは無理って言われたら結構へこむでしょそれは。
宇多丸:結構CGも使ってるけど基本ライブアクションでやってるようなね。「ここをCGかー、くー!」ってねあのくだりはおかしかったですね。そここだわりがあったんだって。
高橋:あと生き物みたいに見えますよね、車が全部。
宇多丸:そうですね。車そのものもキャラクターがあって。言わずもがなの楽器車も。
高橋:楽器車ね。
宇多丸:あれでもドラムの人大変ですよ。ドラムが大変だよね。
高橋:ドラムの人はだって休みどころがないですからね。出てからズーッとだからね。でも表から見えないから活躍感が正面からは伝わりにくい。
宇多丸:そうなんですよね。ギターの子が目立っちゃってる。
高橋:あれはスター性が高い人ですから。
宇多丸:彼もバックストーリーが色々あって。
高橋:そうそう、お母さんの皮を被ってるとかね、困った人ですね。
宇多丸:ちょっとレザーフェイス的な。
高橋:そうそう、なんか洞窟でお母さんの死体と暮らしてる時にイモータン・ジョーに拾われたんでしょ?
宇多丸:あぁ、ジョーはジョーで慕われるなりのことも無くはなかったと。
高橋:無くはないんじゃないですか。でもいいですね、イモータン・ジョーが最初に、あ、さらわれたと思ってヨタヨタ走っていくところが本当に普通のおっさんで、あそこ最高ですよね。こんだけ崇められてるのに普通のオヤジっていうのがそこでバレてるっていのがいいですよね。
宇多丸:だって最初も具合めっちゃ悪そうですもんね。肌的には結構きちゃってる老人っていうか。
高橋:天花粉みたいなのをはたいてもらってるときに咳き込んでますからね、ゲホゲホなんて。
宇多丸:ただちょっと毎回終わり際に心配しちゃうんですよね。水とかバジャーッって出しちゃって、ワーって皆群がってきて、一応計画性とかあったんじゃないの?って。大丈夫かなって。
高橋:やっぱりそういう視点なんですよね。
宇多丸:統治者視点(笑)。
高橋:統治者視点ですよ。俺は下で待ってる方ですから。
宇多丸:上に昇るあれも皆でうわーってなってますけど、積載量っていうのがあんだろうと。あーバリバリ、バキーッみたいな。
高橋:本当に統治者の視点ですよね。
宇多丸:そんなことないですよ(笑)。皆を心配してるんですよ。
高橋:俺は水だけ飲んだら帰るか、ですよ。
宇多丸:ジョーは水中毒になるぞなんて嘘っぱち言って。
高橋:いや水は中毒になりやすいですよね。足りないときの禁断症状はすごいですからね。
宇多丸:まぁいろんな見方ができますね。
高橋:でもよかったなー本当に。なんか白黒になってそんなに印象変わらないんじゃないかと思ってたけど、だいぶ違いますね。不吉なシーンの不吉さが増すし、抜けたりするときの明暗さというのもパキッとくる感じになって。元々、白黒映画で大好きなんですけど、どっちもいいと思う。
宇多丸:うん。
高橋:何にも言ってないですね、これね。
宇多丸:いやいや、でもさっきおっしゃってた抽象度が高まってる部分とかで、話の基の構造がもっと分かりやすくなった感じがあるなーとか、さっきから言ってるように、白と黒の、白いところと光るところのコントラストが、元々コントラストの強い映画だと思いますけど、本当に綺麗な映画なんだなーと、立派な映画だなーと。
高橋:立派な映画ですよ。
宇多丸:どこに出しても恥ずかしくない。
高橋:どこに出すつもりなんですか(笑)? 世にもう出てますよ。
宇多丸:どんな基準で評価しても最高っていう。完璧だと思いますよね。
高橋:まぁいいですよね。
宇多丸:はい、すごくいい映画でした! すごく良かったっていう。
高橋:うん。
宇多丸:そんなこと分かってる人が大体来てるんですけどね。
高橋:そうですね。またまた良かった。
宇多丸:いーね。<ブラック&クローム>エディションのコピー“またまた良かった!”
高橋:ヒドイですね(笑)。
宇多丸:また違った味わいというか、白黒の方が好きっていう人がいてもおかしくないくらいのバージョンではないかと思います。
高橋:やっぱりドラマティックな画作りをちゃんとやっていれば、照明とかなんですけど、白黒にしたときにもちゃんともつというを分かってやってますよね。
宇多丸:やっぱりもたないタイプの映画っていのも。
高橋:いっぱいありますね。何とは言いませんけど。でも本当照明がちゃんとしてる映画はそれで大丈夫なんです。『ミスト』なんかもそうでしょ。白黒映画って基本的に色の違いがないから、背景と人間が混ざりやすいっていうのが特徴で、だから白黒映画とカラー映画の照明の一番の違いって、白黒映画は必ずバックライトでエッジを立たせるんですけど、そういうことってカラーでもやる人はやるんで、だからそうなってる映画は基本的に白黒でも大丈夫。
宇多丸:(『~怒りのデス・ロード』は)そういう画作りをしていますよね。
高橋:そうですね。
宇多丸:改めて自力の強さみたいなのが見えるということですかね。でもジョージ・ミラーこんなの撮っちゃってどうするんですか?
高橋:次のやるんでしょだって。
宇多丸:そうか。
高橋:今、映画界っておじいさんしか元気じゃないんですよ。ジョージ・ミラー(71歳)でしょ、リドリー・スコット(79歳)でしょ、ウィリアム・フリードキン(81歳)。
宇多丸:フリードキンは元気って言っていいか分かりませんけど。我々は好きですけどね。年寄りの方が、攻めてる傾向がありますよね。
高橋:もちろん攻めの姿勢ですよね。
宇多丸:しかも根源的な攻めっていうか。なんかあんまりいい言葉じゃないかもしれませんけど。
高橋:見届けたいと思います。
宇多丸:そう言うしかないと思います。えーそんな感じですかね。
と、言うことで今日皆さんに観ていただいた「マッドマックス 怒りのデス・ロード<ブラック&クローム>エディション」は2月8日(水)に2枚組で発売されると。で、<ブラック&クローム>エディションを含むシリーズ全作に加えて、ここでしか観られない『マッドマックス2』の新作ドキュメンタリーを加えた全8枚組の「マッドマックス <ハイオク>コレクション」が同時発売。
高橋:スゴイですね。
宇多丸:ね、また買わなくてはいけないものが増えてしまった。そして明日14日から新宿ピカデリーをはじめ全国の映画館でこの<ブラック&クローム>エディションが上映されます、ということです。久々に大きなスクリーンで、こういう映画のダイナミズムにあふれた作品が観られる珍しい機会なので、たくさん来ていただけたらと思うしだいです。ちなみにですね、申し訳ございません、本日の企画はですね、TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャフル」との連動企画でございまして、一応私のラジオの宣伝もしてよろしいでしょうか。
高橋:どうぞ。
宇多丸:明日(2017年1月14日)夜22時からTBSラジオにいろんな方法で合わせていただくとですね、聞けるという。「週刊映画時評 ムービーウォッチメン」という毎週やっている映画時評のコーナーは、ダンテ・ラムという『激戦 ハート・オブ・ファイト』とかですねいろんな作品がありますけど、そのダンテ・ラムの作品で自転車プロロードレーサーの戦いを描く香港・中国合作映画『疾風スプリンター』。めちゃくちゃ面白いです。そして特集コーナー、「サタデーナイト・ラボ」は、番組史上というかラジオ番組史上というか、メディア史上最もニッチな音楽特集「DJ JIN presents ダ・チーチーチ特集 feat.MOBY」。待ってました! あの“ダ・チーチーチ特集”。
高橋:さっきまで俺知らなくて、聞いて納得しました。
宇多丸:皆さん、分かりませんか、“ダ・チーチーチ”って。“ダ・チーチーチ”ですよ! だから、♪ドツカッ ド ドツカッ ド ドツカッ ド ドツカツ ダ・チーチーチ この“ダ・チーチーチ”です。ほらね、皆あーあーあーって。
高橋:名前が特にないですからね。
宇多丸:その“ダ・チーチーチ”特集をですね。
高橋:それ特集になるんですか。
宇多丸:なるんですよ。僕もびっくりしたんですけど。DJ JINが「ダ・チーチーチがさ」って言ったら結構そのスジの人は「あーダ・チーチーチね」とか言ってて、しかもその歴史的ルーツみたいなのも、きっとそれって誰それから始まったんでしょ、みたいな。そういうのが出てくる出てくるってことで、その“ダ・チーチーチ”研究の第一人者ライムスターのDJ JINとスクービードゥーのドラマーMOBYさんがゲストで、DJ JINが実際に曲をかけながら、“ダ・チーチーチ”がいっぱい出てくる曲とかあるんですよ。で、“ダ・チーチーチ”って出るたびにDJ JINが「オ~イ、オ~イ」って。で“ダ・チーチ”止まりだと「オ~セーフ」ってものすごいバカなね、音楽の聴き方で。
高橋:セーフって何がセーフなんだっていう(笑)。
宇多丸:そう(笑)、ためになるだけじゃなくて結構笑える特集になると思うんでね、あとMOBYさんが実際にドラムセットを持ち込んで“ダ・チーチーチ”を実演してくれたりするということでございます。ヨシキさんは何かお知らせあります?
高橋:えっと今は特にないです。今日も無事メルマガの方を発行したんですけど。
宇多丸:今、物議を醸している。
高橋:物議を醸してないです。
宇多丸:「月刊わたしのスター・ウォーズ」もうできないじゃないですか。
高橋:さよなら「スター・ウォーズ」特集を(笑)。
宇多丸:それが物議だよだから(笑)!
高橋:メルマガ「高橋ヨシキのクレイジー・カルチャー・ガイド!」よろしくお願いします。あともうすぐ映画秘宝が出ます。そっちは毎年恒例ベスト10特集。
宇多丸:私も参加しております。
高橋:そうですね。あとは、宇多丸さんが口約束もしてくれない、「エアロビ映画特集」というのが。
宇多丸:やりますよ、普通に(笑)。じゃあうちの番組でやりましょう。
高橋:映画に出てくるエアロビクス特集。すごいあるんですよ。
宇多丸:「宇多丸さんはきっとエアロビクスに注目して映画を観てないと思うから、その見方を教えてやるっていう」そういう。
高橋:そうそう。
宇多丸:それぶっちゃけ80年代しかねーだろっていう気がしますけど。
高橋:ちょっと微妙に90年代も入ってます。
宇多丸:そうですか。では次回「エアロビ映画特集」でお会いしましょうということで。
高橋:本当かな(笑)。
宇多丸:ということで皆さん、長い時間お付き合いいただきまして、ありがとうございました。またできればラジオを聞いていただければ幸いでございます。ありがとうございました!
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテインメント
<ブラック&クローム>エディションは、全国66館で劇場公開中! 4DXでも上映しているので、カラー版で行きそびれていた人には最後のチャンスかも!