【全起こし】『オアシス:スーパーソニック』トークイベントでアジカン喜多建介がバンド結成秘話を語る!?

リアム&ノエル・ギャラガーが製作総指揮を務め、バンド結成から96年のネブワース・ライヴまでの軌跡を描くオアシス初の長編ドキュメンタリー『オアシス:スーパーソニック』が12月24日(土)に公開される。これを記念して、12月19日(月)、東京千代田区の神楽座にて、オアシスの大ファンであるというASIAN KUNG-FU GENERATIONのギター&ヴォーカルである喜多建介さんと、元ロッキング・オン編集長で本作の日本語字幕監修も手掛けた粉川しのさんを迎えて、トークイベントを開催した。その模様を全文でお届け。

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MC:ASIAN KUNG-FU GENERATIONの喜多さん、今回のこの席はメンバーの中でも取り合いとなったのではないでしょうか?

喜多:本当に僕に来た仕事なのかな、という思いはありますが、僕が一番熱かったから選ばれた、とマネージャーには言われています。

MC:映画はご覧になっていかがでしたか?

喜多:僕もオアシスが好きでいろんな映像を観てきたはずなのですが、初めてみる映像がたっぷりでしたね。ドキュメント映画って、意外と「あ、これ知ってるよ」という事が多かったりするのですが、本当に“新鮮”な映画でした。

MC:粉川さんは本作の字幕監修もされました。完成版をご覧になっていかがでしたか?

粉川:実は大きいスクリーンで観たのは今日が初めてで、そもそも字幕監修という仕事自体が初めてでした。最初は字幕に歴史的な間違いがないかという、いわゆるファクトチェックをすれば良いのかなと思っていたんです。それが全くそうではなくて、逆にそういったところは最初から非常にしっかりしたものでした。私が何をしたかと言うと……、”兄弟のキャラ確認”です(笑)。日本でもこの兄弟ほど、ファンが本人達のキャラクターを理解しているバンドは他にいないんですよね。彼らの一人称が「僕」というのはあり得ない、とか。お母さんのことを呼ぶときに最初は「母さん」という字幕だったのですが、彼らだったら「お袋」か「母ちゃん」じゃないかな、とか。他にもノエルがリアムの事を「彼」って呼んでいたところは、「ヤツ」か「あいつ」。そういった事を一つ一つチェックしました。

他にも1分間に10回くらい「Fucken」って言ってたり(笑)。それをどこまで字幕に活かすべきか、というところ。字数制限はありますが「ロックンロール」をいかに「ロック」と略さずに入れられるか、なんていう事も考えました。

MC:そういった作業の末、二人のキャラクターと字幕がピッタリはまったと思った皆さんも多いでしょうね。では本日、客観的に映画をご覧になっていかがでしたか?

粉川:喜多さんがおっしゃったように、こんな映像がよく残っていたなと思いました。この頃ってまだ94年~96年だから、今のようにスマホで撮影、といった時代ではないですよね。ちゃんとしたビデオカメラで撮影してる。日本のファンが当時グラスゴーまで行って撮影した映像をYouTubeで監督が見つけて、それをこの映画で使用したりしているんですよ。オアシスのライブを観に行った、素人の日本人が撮った映像が入ってる。それくらいかき集めたということですよね。

MC:映像の中にはオフィシャルではない、素が出ていると感じられるものがたくさんありましたね。

粉川:売れていない時代の映像とかもありましたが、普通バンドってああいう時代の映像も記録するものなんですか(笑)?

喜多:アジカンはなかなかカメラは回さないですね。おいしいだろうなっていうレコーディング風景もカメラは回さなくて、CDが出るときに特典に付ける映像がないぞって騒いでます(笑)。

粉川:普通デビューしていれば撮るとは思うんですが、彼らはデビューする前から自分たちで大物みたいに撮ってる。面白いなと思いましたね。

MC:前半、94年・95年あたりの小さなライブハウスや地下室での映像など、使っているギターも全然違いましたね。その割に服が変わってない(笑)。

粉川:いつも古びた感じで(笑)。

喜多:初期のノエルなんかは、ちょっとダサ目でしたね(笑)。

MC:最初はレコード契約も服買うお金ができれば、くらいの感じだったのが、3年弱で25万人のライブに到達しました。バンドの夢みたいなものが凝縮されているようですね。

喜多:最初の3年が本当にすごかったですね。僕がオアシスを知ったのは95年だから、2枚目の「モーニング・グローリー」はもうたぶん出てて、今みたいにインターネットもないから毎月「rockin’on」とか「クロスビート」を買ってオアシスの記事とかちょっとしたニュースを調べていたんです。最後のネブワースのライブが96年、僕はそれ以降もずっとオアシスが好きで最初にライブに行ったのは98年の武道館です。最初の何年間かでこの1本の映画ができるってすごいなって思います。

粉川:95年にリキッドルームで2度目の来日をした時、本国では数万人規模のライブをやっていました。1回目と2回目の来日の時は数百人規模のライブで、日本とはだいぶギャップがあった時代ですね。

MC:バンドの変遷の描き方も非常に面白いものでしたね。

喜多:オアシスの最初の昇り坂ってものすごい急な感じがしますよね。僕らはもう少し緩やかな坂でした(笑)。ただ、デビューして1~2年は確かに早くてあっという間に武道館とかまで行った気はします。

粉川:じゃあ、オアシスみたいに何が何だかわからないうちに…、という感じですか?

喜多:いや、僕らなんて彼らと同じようには語れないですけど(笑)、でも彼らのそんな気持ちもちょっとだけならわかります。周りが変わり始める状況というか、規模もどんどん大きくなってスタッフも増えて、知らない大人が現場に増えたり、とか(笑)。

MC:手に負えなくなるという意味では、オアシスだけではなく海外のビッグネームのバンドには様々なとんでもない伝説がありますね。

粉川:そういう”とんでもないこと”になっていった、最後の世代がオアシスなのかもしれません。例えば60年代レッド・ツェッペリンとかの時代だと、そういうとんでもない事をする人達がロックスターだ、という価値観がありました。今、もうそんなのないですよね。なんなら、ジャスティン・ビーバーの方が全然やんちゃだし(笑)。その意味で、オアシスは最後のロックンロールバンドなのかもしれません。

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MC:映画の中で印象的に使われていた曲はありますか?

喜多:映画の最初の方、マンチェスターのスタジオで「オール・アラウンド・ザ・ワールド」が既に演奏されていました。これ、3枚目のアルバムに入っている曲なんですが、メロディとかはかなりそのまんまで、おそらく後からギターとかで肉付けされていったんだろうなと思います。映像ではリアムの歌録りとか面白かったですね。

粉川:歌詞を覚えてないのに一発録りでOKになるって(笑)。

喜多:歌を録ってるというより、早く終わらせてサッカーを観たい、みたいな雰囲気でしたね。

MC:5日で5曲を録るって、レコーディングのプロセスとしていかがでしたか?

喜多:すごい早いですよね。名盤なのにすごいスピードで作ったんだな…と。

粉川:喜多さんにお聞きしたいのですが、オアシスってデモとアルバムがほとんど変わらないですよね。デモの段階でほぼ完成してる。あれ、バンドのデモとしては特殊なんでしょうか。例えばアジカンの場合はいかがですか?

喜多:アジカンも、デモの最後の段階は意外と本番に近いかもしれません。デモの方がよかった、なんてメンバー間で言うこともありますね。ギタープレイとかはデモでは緊張せず思い切ってできたのに、本番ではちょっと縮こまっちゃったね、とかあります。

粉川:そのデモの思い切りの良さで作ったのが彼らのアルバムなのかもしれませんね。

喜多:ノエルが最終的にいい感じにするんだな、と思いました(笑)。

MC:ノエルの「ライブは良かったのにレコーディングすると…」というセリフがありました。

喜多:ライブのダイナミクスをCDの盤に収めるのはなかなか難しくて、特にバンドを始めた頃の人たちにとっては一つの命題だと思います。映画で「シガレッツ・アンド・アルコール」が流れてましたが、ずいぶん軽い感じになっていて…(笑)。

MC:そういった意味では、ライブで客とコミュニケーションを取る時代とレコーディングで音を編集する時代。プロツールズ前と後の変遷も本作で浮き彫りになっていた気がします。

喜多:オアシスも最初の3枚くらいはプロツールズとかない時代ですものね。

MC:劇中、気になった場面などはありますか?

粉川:ウェールズでの「モーニング・グローリー」のレコーディング風景ですね。「シャンペン・スーパーノヴァ」のリアムのボーカル入れって、歴史的に観る価値のある映像だと思います。こうやって歴史は刻まれたのか、という貴重なシーンですよね。その後の消火器のシーンも含め…(笑)。

MC:貴重ということで言えば、ネブワースのヘリコプターからの映像は迫力もあり本当に貴重ですよね。

喜多:あのネブワースの2日間25万人のライブは本当にちゃんとした映像が出ていなかったから、ウチのゴッチとかと一緒に新宿にブートレグを探しに行って、VHSの汚い映像をゴッチの家で目を凝らしながら観た記憶があります。

粉川:ノエル曰く、あの映像は一昨年の2015年に初めて見つかった、撮ったことを忘れていた映像だそうですよ。本当かどうか疑わしいですが。用意周到に全て収められていて、その映像がもとで始まった企画が今回の映画だそうです。

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MC:オアシスの思い出の曲を教えていただけますか?

喜多:同じ質問をされたことがあるのですが、いつも「シャンペン・スーパーノヴァ」と答えています。単純に一番好きなとても美しい曲で、映画の本編でもネブワースの最後に歌われていましたが、リアムはもうこんな綺麗な声出ないのではと思うくらい良い録音がされている、とにかく大好きな曲です。

実はもう一つ迷った曲があって、それが「リヴ・フォーエヴァー」です。ノエルが映画の中で「すごい曲ができた」って言ってましたよね。実はこの曲はアジカンが結成された時の初めての課題曲だったんです。みんな下手だったのでこの曲を練習して、スタジオで初めて合わせたという思い出があります。実は僕たちのデビューアルバムの「E」って曲には、この曲のギターソロがそのまま入っているんです。かっこよく言うとオマージュですかね(笑)、それくらい好きな曲です。

オアシスってマイナーペンタトニックっていうギタースケールをノエルが多用してて、それを覚えるとコピーしやすいというか楽しいんですよね。ノエルのギターって基本に忠実な感じなんですよ。そういうところもすごく好きです。あと、オアシスはコードと歌があればそれでコピーできるので、初心者にはお薦めです。押さえ方もそんなに難しくなく、3つか4つのコードでできている曲もあります。

粉川:ノエルはすごいオタクでいろんな音楽を聴いているんだけれど、でもだからといって難しい方には絶対行かない。自分の中で常にエッセンシャルなものを信じて、新しい曲を作っていくぶれない人なんですよね。

喜多:メロディメイカーとしてすごいということなんでしょうね。最初にアジカンの後藤と会った時に盛り上がったのはオアシスとかブラーの話題でした。それで気が合ってバンドを結成したんですよ。

MC:「リヴ・フォーエヴァー」は音楽シーンの時代的な視点からも語られる事が多い曲ですね。

粉川:昔、オアシスの「リヴ・フォーエヴァー」というタイトルが付けられた、ブリットポップのドキュメンタリー映画があったんですよ。それが今回すごく面白いのが、本作ではブリットポップの「ブ」の字も出て来なければ、ブラーの「ブ」の字も出て来ない。そういう時代背景みたいなものを敢えて一切描いていないんですよね。本来であれば、グランジがどうで、アメリカがどういう状況で…と語れることは山ほどあるはずです。ところがそこは一切触れていない。そうすることで時代に惑わされないオアシスの普遍性を抽出して描こうとしたのかなと思います。

喜多:もっとドラマチックにしようと思えばできたかもしれないけど、そうはしなかった。

粉川:何の説明もなくケイト・モスが通り過ぎたりしてるんだけど、そこについては一切触れない(笑)。その代わりに彼らのパーソナルなところをすごく細やかに描いてる。父親の事をこんなに話してるインタビューってたぶんこれまでにないと思います。

MC:粉川さんのオアシスの思い出の曲を教えてください。

粉川:悩んだのですが「シガレッツ・アンド・アルコール」にしました。私が大学一年の時に出たアルバムなのですが、歌詞カードを見てぶっ飛んだ覚えがあります。最初のところ、「imagination」を「イマジネシオン」って歌ってるんですよね。「some action」を「サム・アクシオン」。あの歌い方が、セックス・ピストルズの「勝手にしやがれ!!」みたいで、この人たちパンクでもあるんだなって思ったんです。「モーニング・グローリー」の時代になるとノエルもソングライターとして洗練されてきて、あれは本当にマスターピース、完璧な名盤だと思うのですが、まだもう少し荒っぽくて勢いでいけちゃったマジカルがあると思います。ねちょーっと歌うんですよね(笑)。

喜多:彼らは訛ってるんですか…?

粉川:リアムはいまだに訛ってます(笑)。ノエルはおもしろいぐらい訛ってない。そこも兄弟違うんですよね。

MC:改めて、オアシスの魅力とは?

喜多:やはりメロディメイカーとしてのノエルは凄いなと思います。ノエルは、自分は曲を書いただけ、何万人もの歌ってくれる人たちが名曲にしてくれたんだと映画の中で言っていました。その言葉が心に響きましたね。

曲の良さだけではなくて、当時は現象化していたので。ノエルがファンを大事にしている発言が観られたのは嬉しかったですね。

粉川:毎日「Fucken,Fucken」言って公営住宅で育った人たちが、何も考えてないのに素晴らしいギターと素晴らしい歌でのし上がっていく。あんな悪ガキがなぜか「トーク・トゥナイト」とか「リヴ・フォーエヴァー」みたいに、繊細で美しく人の心を突く曲を書けてしまう。彼ら自身のリアルをロックンロールに乗せて皆に見せてくれているような感じがします。オアシスの良さって「この曲のこのサウンド感が…」みたいな事では語れないんですよね。

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